この作品は、ホロクリエイター @HOLOcreater0219 の企画第4弾参加作品として、2022年8月15日 01:53に投稿された作品です。
素晴らしい企画を開催していただき、誠にありがとうございます。
~「王女ルーナ姫、またの名を「お菓子の国のお姫様」。
みんなが愛するルーナ姫に、万歳三唱をお贈りします。
万歳!万歳!万歳!!」~
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みなさん、初めまして、こんにちは。
私はこのお話の主人公ルーナ姫の、亡き祖母でございます。幽霊が喋る?そんな普通なことに驚かれても、困ってしまいますね。
ここはルーナ姫の居城の3階の奥の方の部屋。教育係のトワちゃんが毎日ルーナ姫にお勉強を教えている部屋です。
「はあ……」
あらあら、ルーナ姫。今日何度目のため息でしょうか。トワちゃんの表情も、さっきよりもっと暗くなってしまいましたよ。
「ルーナ姫、退屈なのはわかりますが、勉強に身を入れてください」
「ちゅ~~ま~~ん~~な~~い~~~~~」
姫ったら、脚をバタバタさせて、可愛いわねえ。
「姫」
「だって、今日も昨日もおとといもその前も、王国令とか国王令とか、しょんなややこしい話ばっかり!」
「それは、……そうですが」
「王様の命令なんて、みんな同じでしょぉおおお?」
「姫!」
バタバタバタバタ
「姫はもう、勅令を出せるお歳なのですから、公務のためにも、」
「ぢぅぅぅぅぅぅ」
口をとんがらせて変な音を出す姫は今日も可愛らしいこと。
でも、ルーナ姫は健康な女の子ですから、本当は外に出てお買い物とか、お花畑で遊んだりしたいのよね。
私は平民出身だったから、その気持ちわかるわ~。
「体育やりたいいいいい」
「午前中は体育だったでしょう」
「音楽は~?」
「音楽の先生は今日お休みですよ」
トワちゃんがこれを答えるのは、今日3回目。ルーナ姫は座ってお勉強、苦手だもんね。
「じゃあトワ、一緒に歌ってよぉ」
「今は勅令法のお勉強です」
「い~~~ぃ~~~~や~~~~~~~~~」
あらら。
ルーナ姫はもう眠いのよね。
炭筆を放り投げて、じたばたじたばたと体をひねったり足踏みしたり。
もうこうなってはルーナ姫は止められません。
「はあ……」
ついにトワちゃんまで、椅子に座って同じようなため息になっちゃったわね。
「しょれに!!」
急に大きな声を出した姫に、トワちゃんはびっくり。
「トワ、ルーナのこと、また『姫』って!」
「えっ、だって!る……『ルーナ』なんて、畏れ多くて呼べませんよ」
「丁寧語もやめてって言ったでしょおぉぉ?」
城内は、姫様が絶対。
「わかりま……わかった、『ルーナ』」
「よ~し」
脱力して、低い声。トワちゃんは意識してないけど、トワちゃんのこのかっこいい声も、姫の大のお気に入りなのよね。
目を細めて腕を組み、偉そうにコクコク頷く姫。
もちろん、「偉そう」じゃなくて実際に偉いんですけどね。
「ねえトワ、お話ししてぇ」
「しかたありま……しょうがないなあ。お話一つしたら、勉強に戻るからね?」
「はあああい!!」
完全にやる気を失ったルーナ姫に、もう一度勉強しろと言っても、無理だってわかっているトワちゃん。姫のご機嫌もお手の物ね。
「最近、城下でもっぱらの噂が流れてる。『怪盗フェスティバル』っていう賊のことだ」
「ぞく?」
「悪い人ってこと。その賊は、お金持ちの人の家の物を盗み出して、悪いことをしてるんだ」
「しょーなの……おかねもちってなんなのら?お金は、みんな持ってるでしょ?」
ルーナ姫は興味津々。
「お金をたくさん持ってる人のことです。姫が時々城外の者と会うことがありますが、その人たち、……まあ姫のお友達ってことです」
「ルーナにお菓子くれる人?」
「そうですよ」
「お菓子くれる人に悪いことしゅるの?むむむ、許せん!!」
「そうそう」
身を乗り出してきたルーナ姫に、トワちゃんも話が乗ってきました。
「最近賊が狙うのは、国外からお砂糖を輸入して専売する座の人たちなんだ。お砂糖はとっても大事な商品だから、信用できる人たちにだけに扱ってもらってるんだよ」
「お砂糖は大事!お菓子作る時にも使うもんね!!」
「よく知ってるね、ルーナ。かしこい」
「にへへぇ」
なでり、なでり。
トワちゃんに褒められて嬉しいルーナ姫。にへら~顔もとっても可愛いわ。
「賊はその、大事な大事な砂糖を、どこかへか持ち去ってしまうんだって」
「大変!!」
口を尖らせたトワちゃんは人差し指を立てて、ルーナ姫の前にかざす。
「そうなんだ!だから今、賊を捕まえようって、みんなでがんばっているんだよ!」
「トワも?」
「いや、私は……姫の専属護衛だから、お城を守る役目。賊はいつ出てくるか、わからないからね」
「しょーなんだぁ」
トワちゃんは一息ついて立ち上がると、部屋に備えられた鈴紐を三回引く。
「それじゃ、お話は終わり。王女様が勅令を出す方法のお勉強に戻るよ」
「えええ~~」
「半刻したらお茶も入りますから、ホラがんばって!」
「うぅ、はあ~~~い」
ルーナ姫はお利口なので、お約束はきちんと守ります。
しぶしぶながら、さっき放り投げた炭筆を拾ってきて、勉強机につきました。
その日の夕刻のことでした。
なんと、「怪盗フェスティバル、今宵砂糖を頂戴する!」という予告状が、城下の全ての砂糖問屋に投げ込まれたのです!砂糖問屋は城にたくさん税金を納めてくれるお得意様。既に盗みに入られたことがある問屋、そうでない問屋、全部に城の警備を応援に出しました。
お昼寝をたっぷりしたルーナ姫は眠れなかったので、同じ部屋で休むトワちゃんとベッドの縁に座ってお話をしていました。
「ね、ね、今街で暴れてるのって、賊?『怪盗ナントカ』?」
「そうですよ。『怪盗フェスティバル』。くっそぉ……どの問屋に入るのか、予想できない」
お城の警備が手薄になって、城には二人きり。こんなときにお城で何か起こったら、どうするのでしょう。お父様のいる本城まで馬で半日、それでは間に合いませんよ。
“火事だー!!城の厨房で火事だー!!”
ほらね。
お部屋の外からの甲高い声に、トワちゃんも、ルーナ姫もびっくり。
「姫!」
「トワ!怖いよぉ!」
お城の中には、ルーナ姫以外には、トワちゃんしかいません。火事を消せるのはトワちゃんだけ。早めに火を消せば、お城全部に火が回るのを防げるかも。
トワちゃんは必死に考えます。
「姫!」
トワちゃんは両腕でルーナ姫の肩をがっしと掴み、目を真正面に据えます。
「はいぃ」
「私が姫をお守りしますから、絶対に、部屋から出ないでくださいね!!」
「はっ、はいぃ」
トワちゃんの凛とした表情に、ルーナ姫はメロメロっとなって、吸い込まれそうになってしまいました。あぁあん、私もこんな感じにかっこいい女の子に抱きしめられたいわ!
トワちゃんは言い残すと、短剣を手に姫の部屋を飛び出て、階下の厨房に走りました。
それと入れ違いに、部屋のクロゼットの中から、コンコンと音が聞こえてきました。
部屋にはルーナ姫一人。姫はビクっとしてクロゼットに目をやります。
「だっ、誰!?」
「誰かと聞かれたら、お答えしなくちゃ失礼だね」
クロゼットが女の声で喋りだしました。
「ある時はお祭り女、またある時は、街の菓子屋の看板娘。しかしてその実体は……」
音も無く扉が開いて、出てきたのは小柄な少女。
「怪盗フェスティバルとは、私のことさ」
「怪盗!!?」
少女は闇夜に紛れる黒い衣服と頭巾をかぶり、顔だけが見えていました。頭巾の上からでも、頭の上でなにやらピコンピコンと動くものがあるのがわかります。ネタバレですが、あれはアホ毛です。
「わっ、悪い人!!」
「悪い人かどうかは、私が決めるけどね」
でも、姫は正直なところ、悪い人ダメ!という気持ちよりも、有名な人に会えた!というワクワクの方が勝っているようです。もう、しょうがありませんね。
「でも、お姫様の前だ。私はあなたに危害を加えるつもりはないんでね」
少女は姫の前に静かに跪き、両手を脇について礼を尽くしました。
姫は寝巻のまま仁王立ち。右腕をおおげさに振り下ろして、怪盗に人差し指を向けます。
「おっ、お前の悪事を知っているじょ!」
「私をご存じで。これは光栄なこと。どんな悪さをしたっていうんです?」
上目遣いで姫を見上げて、とぼける少女。
「ルーナのお友達にひどいことしたでしょ!!トワに聞いたんだから!!」
「ひどいこと……ね」
怪盗フェスティバルは、姫を視線から外し、頭巾を取って中身のアホ毛を飛び跳ねさせました。後ろに流れる橙色のポニーテールがぴょこんと揺れて、あら可愛い。
「改めて名乗ります……私は街の菓子屋の娘、まつりと申します」
「まつり……ちゃん?」
その清楚な、可愛らしい容姿と名前に、ルーナ姫はすっかり心を許してしまうのでした。
「ルーナ姫、なぜ砂糖問屋がお金持ちなのか、知っていますか?」
「えっ……?大事なお砂糖を売ってるから、じゃないのら?」
ルーナ姫は素直なので、ドキドキしたまま答えます。
「じゃあ姫、街の今の砂糖の値段、知っていますか?」
「お砂糖の……お値段?」
「一袋、2,800ホロです」
「そ、そーなのら……?」
ピンとこないわよね。お砂糖の専売問屋でしか、お砂糖は売っちゃいけないし、普段お買い物をしない姫が知るわけないわ。
「では、問屋が街の外から砂糖を買ってくるとき、砂糖はいくらだと思いますか?」
そんなの、姫でなくても、一般庶民は知りません。だって、輸入ルートは問屋しか知らないんですから。
「1袋あたり、50ホロなんです」
「安っ!」
ルーナ姫も、びっくり。
私もびっくり。安っ?!
「砂糖問屋は、安く買った砂糖を、自分たちしか扱えないのを良いことに、街の人たちに高く高ぁく売りつけてるんです。去年はまだ、500ホロくらいだったから我慢できたけど、ここ半年で問屋がみんな値上げしたせいで……街の菓子屋はオシマイなんだよ」
どこか、泣きそうな声を出すまつり。
「専売座を無くしてほしい。私たち菓子屋は、たくさんたくさん、色んなお菓子を作りたい。でも、こんなに砂糖が高くなっちゃったら、高級なお菓子しか作れない。街の子供たちみんなに売るお菓子が、作れなくなっちゃうよ……」
「お、お菓子、なくなっちゃうの?!」
まつりは顔をしかめて言う。
「専売座の砂糖問屋は、安く砂糖を仕入れられるから、たくさんお菓子を作れるよ。でも、全部が同じで面白みの無いお菓子ばっかり!私たちが作りたいお菓子は作れないんだ!!」
「しょ、しょんなぁ……」
「私たちはお菓子を、うっ!…では、これにて御免!!」
まつりは突然話を止め、素早く頭巾をかぶり直し、またクロゼットの中に消えていった。
「姫ぇえええ~~!無事ですか!!?」
部屋の外からは、トワちゃんの焦った声が近づいてきました。バタン!と大きな音をたてて戸が開き、ルーナ姫の姿を認めたトワちゃんは派手に崩れ落ちました。
「無事だぁぁあああ~!良かったああ~!」
「トワ、火事は平気だったのら?」
「はぁ、はぁ、誰もいないはずの城で、『火事だ』って、誰が言うんだよ……嘘だった……やられたよ……」
涙目になりながら大の字になって寝転がるトワは、心から安心しているようね。
でも、ルーナ姫は、それよりも他のことを気にしているみたい。
「トワ、教えて」
「えっ、はい、ルーナ姫」
トワちゃんは姿勢を正して、さっきどこかの少女がしていたように跪く。
「お砂糖って、いくらで買えるのら?」
「お砂糖……ですか。買い物係に聞けば、いや、砂糖は全部献上品でやってるので、城では買ってないからわかりません」
「お砂糖を、街の人が買うと、1袋2,800ホロするって、本当なのら?」
「えっ?!」
トワちゃんはびっくり。トワちゃんも平民の出だから、お菓子作りをしたことあるわよね。
「そっ、そんな!そんなはずない!そんなに高かったら、誰も砂糖を買えない!お菓子が作れなくなっちゃうよ!!」
心底びっくりした顔のトワちゃんに、ルーナ姫は事の重大さを感じたみたい。
「トワ、命令なのら」
「は、はっ!」
ルーナ姫は厳戒態勢の深夜、生まれて初めての勅令を、トワちゃんに下しました。
「すぐに、街の砂糖の値段を調べること!高すぎる場合には、砂糖座を無くすのら!!」
「ははぁっ!」
トワちゃん、初めてのまともな命令に、畏まっちゃって可愛いわね。いつもは「今日はお休みとしゅるのらぁ!!」とかですから。うふふ。
「……ん?」
気づいたわね、トワちゃん。
「姫、なんで急に砂糖座の話を?さては、怪盗……?」
「トワ?」
「はい、姫」
「内緒!」
「姫ぇ!?」
いくら、ウインクで可愛くキメたルーナ姫の言うことでも、トワちゃんはなんでも従うわけじゃないわよね。
部屋の中を、パタパタと走り回る姫に、追いかけるトワちゃん。
「会ったんですか?!怪盗フェスティバルに、会ったんですね!?」
「内緒~!!」
「姫!!怪盗の特徴を詳しくお聞かせください!!」
「トワ~?」
ルーナ姫はくるっと振り向くと、イタズラを思いついた時のようにニッコリと笑いかけました。
「内緒にしててくれたら、『護衛を任されてるのに嘘に騙されてルーナを一人にした』こと、黙っててあげるのになぁ~?」
ぐっ、と言葉に詰まるトワちゃん。
こんなことがルーナ姫のお父様、国王様にばれたら、即刻クビだ。可愛い可愛いルーナ姫と一緒の、面倒臭くも楽しい暮らしが、終わり……?
「……内緒にします」
「いやったー!!!」
トワちゃん、がっくりとうなだれ、次は油断しないぞの決意。
かくして怪盗フェスティバルの犯行予告は、無事不発に終わったのでした。
翌日から3日間かけて、ルーナ王女令第1号によって砂糖問屋の帳簿が臨時調査され、仕入れ値50ホロから100ホロに対して、売値が2,600ホロから4,000ホロという法外な金額になっていたことがわかりました。
適正な値段に引き下げないと、専売権を廃止する!という王女からの直々の通知に、問屋たちはひれ伏すしかありません。ひと月のうちに、街のお菓子屋さんたちは、多くの人々に安くておいしいお菓子を振舞えるようになりました。
ルーナ姫、私の自慢の孫!!天才!!!
城下では、前よりも安くお砂糖を仕入れられるようになって、次第に他の街からもお菓子屋さんが集まってくるようになりました。街のお菓子屋さんたちは、お互いにその味やトッピングを競い合い、街と城はお菓子で国中の評判となりました。
数年後、「夏色菓子店」の呼びかけによって、ルーナ姫を称えるお祭りが開かれました。姫様がお祭りに来たとき、街のお菓子屋さんは、感謝と尊敬をこめて口々にこう言ったそうです。
<<<<お菓子の国のお姫様、万歳!!>>>>
お祭りでふるまわれた何百種類ものお菓子は、ルーナ姫だけではなく、国王様も、トワちゃんも、お菓子屋さんの女主人も、砂糖問屋も、そして街中の子供たちも、みんなを、みぃんなを笑顔にできました。
以後、「怪盗フェスティバル」は一切姿を見せることはありませんでした。
その代わり、お菓子の国のお姫様は、街のお菓子屋さんたちと、特に仲良くなったようです。
めでたし、めでたし。
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pixivにアップロードした作品について、今後このブログでも、コピペにて投稿するようにします。このブログは、僕の言論の保存の意味も大いにあるので、本来の使い方です。
「王女令第1号、公布!」はpixivに上げた(まともな)作品としては10本目です。前の9本についても、順次上げていきますし、今後書きあがる(と思われる)まつミオ、わたしし、マリるし等についても記事として投稿することとします。
筆が遅いため、できても月に1本くらいになってしまうかもしれませんが、ご期待いただければ幸いです。
素晴らしい企画を開催していただき、誠にありがとうございます。
~「王女ルーナ姫、またの名を「お菓子の国のお姫様」。
みんなが愛するルーナ姫に、万歳三唱をお贈りします。
万歳!万歳!万歳!!」~
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みなさん、初めまして、こんにちは。
私はこのお話の主人公ルーナ姫の、亡き祖母でございます。幽霊が喋る?そんな普通なことに驚かれても、困ってしまいますね。
ここはルーナ姫の居城の3階の奥の方の部屋。教育係のトワちゃんが毎日ルーナ姫にお勉強を教えている部屋です。
「はあ……」
あらあら、ルーナ姫。今日何度目のため息でしょうか。トワちゃんの表情も、さっきよりもっと暗くなってしまいましたよ。
「ルーナ姫、退屈なのはわかりますが、勉強に身を入れてください」
「ちゅ~~ま~~ん~~な~~い~~~~~」
姫ったら、脚をバタバタさせて、可愛いわねえ。
「姫」
「だって、今日も昨日もおとといもその前も、王国令とか国王令とか、しょんなややこしい話ばっかり!」
「それは、……そうですが」
「王様の命令なんて、みんな同じでしょぉおおお?」
「姫!」
バタバタバタバタ
「姫はもう、勅令を出せるお歳なのですから、公務のためにも、」
「ぢぅぅぅぅぅぅ」
口をとんがらせて変な音を出す姫は今日も可愛らしいこと。
でも、ルーナ姫は健康な女の子ですから、本当は外に出てお買い物とか、お花畑で遊んだりしたいのよね。
私は平民出身だったから、その気持ちわかるわ~。
「体育やりたいいいいい」
「午前中は体育だったでしょう」
「音楽は~?」
「音楽の先生は今日お休みですよ」
トワちゃんがこれを答えるのは、今日3回目。ルーナ姫は座ってお勉強、苦手だもんね。
「じゃあトワ、一緒に歌ってよぉ」
「今は勅令法のお勉強です」
「い~~~ぃ~~~~や~~~~~~~~~」
あらら。
ルーナ姫はもう眠いのよね。
炭筆を放り投げて、じたばたじたばたと体をひねったり足踏みしたり。
もうこうなってはルーナ姫は止められません。
「はあ……」
ついにトワちゃんまで、椅子に座って同じようなため息になっちゃったわね。
「しょれに!!」
急に大きな声を出した姫に、トワちゃんはびっくり。
「トワ、ルーナのこと、また『姫』って!」
「えっ、だって!る……『ルーナ』なんて、畏れ多くて呼べませんよ」
「丁寧語もやめてって言ったでしょおぉぉ?」
城内は、姫様が絶対。
「わかりま……わかった、『ルーナ』」
「よ~し」
脱力して、低い声。トワちゃんは意識してないけど、トワちゃんのこのかっこいい声も、姫の大のお気に入りなのよね。
目を細めて腕を組み、偉そうにコクコク頷く姫。
もちろん、「偉そう」じゃなくて実際に偉いんですけどね。
「ねえトワ、お話ししてぇ」
「しかたありま……しょうがないなあ。お話一つしたら、勉強に戻るからね?」
「はあああい!!」
完全にやる気を失ったルーナ姫に、もう一度勉強しろと言っても、無理だってわかっているトワちゃん。姫のご機嫌もお手の物ね。
「最近、城下でもっぱらの噂が流れてる。『怪盗フェスティバル』っていう賊のことだ」
「ぞく?」
「悪い人ってこと。その賊は、お金持ちの人の家の物を盗み出して、悪いことをしてるんだ」
「しょーなの……おかねもちってなんなのら?お金は、みんな持ってるでしょ?」
ルーナ姫は興味津々。
「お金をたくさん持ってる人のことです。姫が時々城外の者と会うことがありますが、その人たち、……まあ姫のお友達ってことです」
「ルーナにお菓子くれる人?」
「そうですよ」
「お菓子くれる人に悪いことしゅるの?むむむ、許せん!!」
「そうそう」
身を乗り出してきたルーナ姫に、トワちゃんも話が乗ってきました。
「最近賊が狙うのは、国外からお砂糖を輸入して専売する座の人たちなんだ。お砂糖はとっても大事な商品だから、信用できる人たちにだけに扱ってもらってるんだよ」
「お砂糖は大事!お菓子作る時にも使うもんね!!」
「よく知ってるね、ルーナ。かしこい」
「にへへぇ」
なでり、なでり。
トワちゃんに褒められて嬉しいルーナ姫。にへら~顔もとっても可愛いわ。
「賊はその、大事な大事な砂糖を、どこかへか持ち去ってしまうんだって」
「大変!!」
口を尖らせたトワちゃんは人差し指を立てて、ルーナ姫の前にかざす。
「そうなんだ!だから今、賊を捕まえようって、みんなでがんばっているんだよ!」
「トワも?」
「いや、私は……姫の専属護衛だから、お城を守る役目。賊はいつ出てくるか、わからないからね」
「しょーなんだぁ」
トワちゃんは一息ついて立ち上がると、部屋に備えられた鈴紐を三回引く。
「それじゃ、お話は終わり。王女様が勅令を出す方法のお勉強に戻るよ」
「えええ~~」
「半刻したらお茶も入りますから、ホラがんばって!」
「うぅ、はあ~~~い」
ルーナ姫はお利口なので、お約束はきちんと守ります。
しぶしぶながら、さっき放り投げた炭筆を拾ってきて、勉強机につきました。
その日の夕刻のことでした。
なんと、「怪盗フェスティバル、今宵砂糖を頂戴する!」という予告状が、城下の全ての砂糖問屋に投げ込まれたのです!砂糖問屋は城にたくさん税金を納めてくれるお得意様。既に盗みに入られたことがある問屋、そうでない問屋、全部に城の警備を応援に出しました。
お昼寝をたっぷりしたルーナ姫は眠れなかったので、同じ部屋で休むトワちゃんとベッドの縁に座ってお話をしていました。
「ね、ね、今街で暴れてるのって、賊?『怪盗ナントカ』?」
「そうですよ。『怪盗フェスティバル』。くっそぉ……どの問屋に入るのか、予想できない」
お城の警備が手薄になって、城には二人きり。こんなときにお城で何か起こったら、どうするのでしょう。お父様のいる本城まで馬で半日、それでは間に合いませんよ。
“火事だー!!城の厨房で火事だー!!”
ほらね。
お部屋の外からの甲高い声に、トワちゃんも、ルーナ姫もびっくり。
「姫!」
「トワ!怖いよぉ!」
お城の中には、ルーナ姫以外には、トワちゃんしかいません。火事を消せるのはトワちゃんだけ。早めに火を消せば、お城全部に火が回るのを防げるかも。
トワちゃんは必死に考えます。
「姫!」
トワちゃんは両腕でルーナ姫の肩をがっしと掴み、目を真正面に据えます。
「はいぃ」
「私が姫をお守りしますから、絶対に、部屋から出ないでくださいね!!」
「はっ、はいぃ」
トワちゃんの凛とした表情に、ルーナ姫はメロメロっとなって、吸い込まれそうになってしまいました。あぁあん、私もこんな感じにかっこいい女の子に抱きしめられたいわ!
トワちゃんは言い残すと、短剣を手に姫の部屋を飛び出て、階下の厨房に走りました。
それと入れ違いに、部屋のクロゼットの中から、コンコンと音が聞こえてきました。
部屋にはルーナ姫一人。姫はビクっとしてクロゼットに目をやります。
「だっ、誰!?」
「誰かと聞かれたら、お答えしなくちゃ失礼だね」
クロゼットが女の声で喋りだしました。
「ある時はお祭り女、またある時は、街の菓子屋の看板娘。しかしてその実体は……」
音も無く扉が開いて、出てきたのは小柄な少女。
「怪盗フェスティバルとは、私のことさ」
「怪盗!!?」
少女は闇夜に紛れる黒い衣服と頭巾をかぶり、顔だけが見えていました。頭巾の上からでも、頭の上でなにやらピコンピコンと動くものがあるのがわかります。ネタバレですが、あれはアホ毛です。
「わっ、悪い人!!」
「悪い人かどうかは、私が決めるけどね」
でも、姫は正直なところ、悪い人ダメ!という気持ちよりも、有名な人に会えた!というワクワクの方が勝っているようです。もう、しょうがありませんね。
「でも、お姫様の前だ。私はあなたに危害を加えるつもりはないんでね」
少女は姫の前に静かに跪き、両手を脇について礼を尽くしました。
姫は寝巻のまま仁王立ち。右腕をおおげさに振り下ろして、怪盗に人差し指を向けます。
「おっ、お前の悪事を知っているじょ!」
「私をご存じで。これは光栄なこと。どんな悪さをしたっていうんです?」
上目遣いで姫を見上げて、とぼける少女。
「ルーナのお友達にひどいことしたでしょ!!トワに聞いたんだから!!」
「ひどいこと……ね」
怪盗フェスティバルは、姫を視線から外し、頭巾を取って中身のアホ毛を飛び跳ねさせました。後ろに流れる橙色のポニーテールがぴょこんと揺れて、あら可愛い。
「改めて名乗ります……私は街の菓子屋の娘、まつりと申します」
「まつり……ちゃん?」
その清楚な、可愛らしい容姿と名前に、ルーナ姫はすっかり心を許してしまうのでした。
「ルーナ姫、なぜ砂糖問屋がお金持ちなのか、知っていますか?」
「えっ……?大事なお砂糖を売ってるから、じゃないのら?」
ルーナ姫は素直なので、ドキドキしたまま答えます。
「じゃあ姫、街の今の砂糖の値段、知っていますか?」
「お砂糖の……お値段?」
「一袋、2,800ホロです」
「そ、そーなのら……?」
ピンとこないわよね。お砂糖の専売問屋でしか、お砂糖は売っちゃいけないし、普段お買い物をしない姫が知るわけないわ。
「では、問屋が街の外から砂糖を買ってくるとき、砂糖はいくらだと思いますか?」
そんなの、姫でなくても、一般庶民は知りません。だって、輸入ルートは問屋しか知らないんですから。
「1袋あたり、50ホロなんです」
「安っ!」
ルーナ姫も、びっくり。
私もびっくり。安っ?!
「砂糖問屋は、安く買った砂糖を、自分たちしか扱えないのを良いことに、街の人たちに高く高ぁく売りつけてるんです。去年はまだ、500ホロくらいだったから我慢できたけど、ここ半年で問屋がみんな値上げしたせいで……街の菓子屋はオシマイなんだよ」
どこか、泣きそうな声を出すまつり。
「専売座を無くしてほしい。私たち菓子屋は、たくさんたくさん、色んなお菓子を作りたい。でも、こんなに砂糖が高くなっちゃったら、高級なお菓子しか作れない。街の子供たちみんなに売るお菓子が、作れなくなっちゃうよ……」
「お、お菓子、なくなっちゃうの?!」
まつりは顔をしかめて言う。
「専売座の砂糖問屋は、安く砂糖を仕入れられるから、たくさんお菓子を作れるよ。でも、全部が同じで面白みの無いお菓子ばっかり!私たちが作りたいお菓子は作れないんだ!!」
「しょ、しょんなぁ……」
「私たちはお菓子を、うっ!…では、これにて御免!!」
まつりは突然話を止め、素早く頭巾をかぶり直し、またクロゼットの中に消えていった。
「姫ぇえええ~~!無事ですか!!?」
部屋の外からは、トワちゃんの焦った声が近づいてきました。バタン!と大きな音をたてて戸が開き、ルーナ姫の姿を認めたトワちゃんは派手に崩れ落ちました。
「無事だぁぁあああ~!良かったああ~!」
「トワ、火事は平気だったのら?」
「はぁ、はぁ、誰もいないはずの城で、『火事だ』って、誰が言うんだよ……嘘だった……やられたよ……」
涙目になりながら大の字になって寝転がるトワは、心から安心しているようね。
でも、ルーナ姫は、それよりも他のことを気にしているみたい。
「トワ、教えて」
「えっ、はい、ルーナ姫」
トワちゃんは姿勢を正して、さっきどこかの少女がしていたように跪く。
「お砂糖って、いくらで買えるのら?」
「お砂糖……ですか。買い物係に聞けば、いや、砂糖は全部献上品でやってるので、城では買ってないからわかりません」
「お砂糖を、街の人が買うと、1袋2,800ホロするって、本当なのら?」
「えっ?!」
トワちゃんはびっくり。トワちゃんも平民の出だから、お菓子作りをしたことあるわよね。
「そっ、そんな!そんなはずない!そんなに高かったら、誰も砂糖を買えない!お菓子が作れなくなっちゃうよ!!」
心底びっくりした顔のトワちゃんに、ルーナ姫は事の重大さを感じたみたい。
「トワ、命令なのら」
「は、はっ!」
ルーナ姫は厳戒態勢の深夜、生まれて初めての勅令を、トワちゃんに下しました。
「すぐに、街の砂糖の値段を調べること!高すぎる場合には、砂糖座を無くすのら!!」
「ははぁっ!」
トワちゃん、初めてのまともな命令に、畏まっちゃって可愛いわね。いつもは「今日はお休みとしゅるのらぁ!!」とかですから。うふふ。
「……ん?」
気づいたわね、トワちゃん。
「姫、なんで急に砂糖座の話を?さては、怪盗……?」
「トワ?」
「はい、姫」
「内緒!」
「姫ぇ!?」
いくら、ウインクで可愛くキメたルーナ姫の言うことでも、トワちゃんはなんでも従うわけじゃないわよね。
部屋の中を、パタパタと走り回る姫に、追いかけるトワちゃん。
「会ったんですか?!怪盗フェスティバルに、会ったんですね!?」
「内緒~!!」
「姫!!怪盗の特徴を詳しくお聞かせください!!」
「トワ~?」
ルーナ姫はくるっと振り向くと、イタズラを思いついた時のようにニッコリと笑いかけました。
「内緒にしててくれたら、『護衛を任されてるのに嘘に騙されてルーナを一人にした』こと、黙っててあげるのになぁ~?」
ぐっ、と言葉に詰まるトワちゃん。
こんなことがルーナ姫のお父様、国王様にばれたら、即刻クビだ。可愛い可愛いルーナ姫と一緒の、面倒臭くも楽しい暮らしが、終わり……?
「……内緒にします」
「いやったー!!!」
トワちゃん、がっくりとうなだれ、次は油断しないぞの決意。
かくして怪盗フェスティバルの犯行予告は、無事不発に終わったのでした。
翌日から3日間かけて、ルーナ王女令第1号によって砂糖問屋の帳簿が臨時調査され、仕入れ値50ホロから100ホロに対して、売値が2,600ホロから4,000ホロという法外な金額になっていたことがわかりました。
適正な値段に引き下げないと、専売権を廃止する!という王女からの直々の通知に、問屋たちはひれ伏すしかありません。ひと月のうちに、街のお菓子屋さんたちは、多くの人々に安くておいしいお菓子を振舞えるようになりました。
ルーナ姫、私の自慢の孫!!天才!!!
城下では、前よりも安くお砂糖を仕入れられるようになって、次第に他の街からもお菓子屋さんが集まってくるようになりました。街のお菓子屋さんたちは、お互いにその味やトッピングを競い合い、街と城はお菓子で国中の評判となりました。
数年後、「夏色菓子店」の呼びかけによって、ルーナ姫を称えるお祭りが開かれました。姫様がお祭りに来たとき、街のお菓子屋さんは、感謝と尊敬をこめて口々にこう言ったそうです。
<<<<お菓子の国のお姫様、万歳!!>>>>
お祭りでふるまわれた何百種類ものお菓子は、ルーナ姫だけではなく、国王様も、トワちゃんも、お菓子屋さんの女主人も、砂糖問屋も、そして街中の子供たちも、みんなを、みぃんなを笑顔にできました。
以後、「怪盗フェスティバル」は一切姿を見せることはありませんでした。
その代わり、お菓子の国のお姫様は、街のお菓子屋さんたちと、特に仲良くなったようです。
めでたし、めでたし。
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pixivにアップロードした作品について、今後このブログでも、コピペにて投稿するようにします。このブログは、僕の言論の保存の意味も大いにあるので、本来の使い方です。
「王女令第1号、公布!」はpixivに上げた(まともな)作品としては10本目です。前の9本についても、順次上げていきますし、今後書きあがる(と思われる)まつミオ、わたしし、マリるし等についても記事として投稿することとします。
筆が遅いため、できても月に1本くらいになってしまうかもしれませんが、ご期待いただければ幸いです。
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