2022年9月3日土曜日

二次創作小説「かなたと、星をつかみに。」

かなたと、星をつかみに。

ココとかなた、夢うつつ。

 この作品は、2021年3月10日 18:30に投稿された作品です。


夢の中の話です。


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ココは気づいた。 これは夢だ。 だってここは__ではない。ホロライブハウスも無い。  あたりを見回すと、足元--自分は寝転がっているから、体の下でもある--は土で、十数フィート先は崖になっている。崖には一か所、粗末な吊り橋がかかっており、向こう側と行き来できるようになっている。そこには小さな集落があり、奥は里山になっているようだ。里山に向かって道が伸びているので、その先には大きな村があるのかもしれない。 集落の家々は木造でレンガ造りは無い。吊り橋の縄は、麻か何かでできているようだが、どのくらいの重さが耐えられるのか怪しいものだ。 動こうとしたが、どうも体が重い。腕を動かそうとしたら、土埃が立った。手元にはうろこ。そうだ。私はドラゴンだった。人の気配に誘われて居ついたドラゴン。  集落から人が出てきて、吊り橋をおっかなびっくり渡ってくる。これは貢物を持ってくる儀式。老人と荷物持ちの少女と青年の3人。男性2人は動物の皮をひもで繋げた服(服といっていいのかどうかはわからないが……)を着ているが、少女は首と腰にひもを巻き付けて布を垂らしただけで半裸と言ってさしつかえない状態であった。 青年が最初につり橋を渡り、次に少女。最後に老人が来るようだ。なんだろう、橋を渡っている少女にどこか見覚えがある。小さい背格好に、うつむきがちな顔、ぼさぼさで伸びっぱなしだが美しい銀色の髪、青いひと房。まさか、まさか!お前、かなたんじゃねえか! 思わず、少し身を乗り出す。「ぐおっ」と鳴き声が漏れる。Shit, 人語は発せないか。その音に、青年と対岸の老人は驚いたようだったが、橋を渡っている少女--かなた--は全く気付かないようだった。 かなた、耳、聞こえているか? 絶望感にさいなまれて、うずくまってしまった。夢の中とはいえ、そんなことってあるか。  人間がこっちに近づくときは、驚かせないのがここのルール。老人がこちらに渡り終えるまで、静かにしておくことにした。 3人がそろった。中央の老人が祝詞のようなものを唱え、それが終わるとかなたは風呂敷を広げて貢物をこちらに差し出した。私は大きな爪で貢物を引き寄せる。かなたは、少しおびえているようだ。上目遣いで身を縮こまらせている。 私がわかるか、かなたん。 声は届かない。姿かたちも違う。わかるわけ、ないか。  ゆっくりと、爪の表側をかなたに近づける。かなたは、そっと、その端に触れた。今度は、かなたを爪の内側に隠すようにして、指の腹でそっとかなたの頭をなでた。 かなたはけげんな表情だったが、逃げ出したりはしなかった。十分だ。これで。私たちは隣にいても、傷つけないし、攻撃しあわない。互いに干渉しない。そうしてきたじゃないか。  ドラゴンがそんな行動に出たのは初めてだったらしく、老人は腰を抜かし、青年は斧を構えていたが、かなたと触れ合ったあと私が再び元の体勢に戻ると、安心したようだった。かなたを引っ張り、行きと同じ順で橋を渡っていった。  言葉も食べ物も何もかも違う世界、かなたはどんな生活を送っているだろうと疑問を覚えた。ましてや耳が聞こえていない中で、どのように暮らしているのか。 さすが夢の中というか。かなたの姿を見たいと思ったら橋の向こうの集落の、さらに家の中なのに、かなたの姿がありありと見て取ることができた。植物を乾燥させて、繊維をとる仕事をしている。木材で繊維をほぐして、糸をつむぐ仕事も。しかし、糸を引き出すのに、力が強すぎて途中でちぎれてしまった。隣で作業する女性に、思い切りはたかれる。言葉で説明される機会が無いから、コツがわからないまま見よう見まねでやってるのだろう。 飯を作れば、煮物を上げるタイミングが悪く芋が生煮えだったり、湯が沸かなかったり、すいとんがグズグズだったり。子がいるようだが、泣いていてもそれに気づけず、後ろからはたかれてようやくそれを知ることができたり。かなたは器用とは言えない生活を送っていた。 仕事も満足にできず、娯楽もない。子守をするかなたに、夫?が暴力をふるうのが日常のようだった。かばう者も助ける者もいない。かなたは「あぁ」とか「おぉ」とか言いながら、土下座して許しを乞うていた。……いや、あれは生命を守るために体を伏せ、暴力が終わるのを待っているという方が正しいか。 夫や、村人の暴力は、昼夜問わず続けられた。耳が聞こえないために不便を被り、何を言ってもわからないから口汚い罵声を浴びせる。かなたはそれらを毎日耐えているのだった。  ある晩、かなたは家出をした。子守に疲れ果て、夜中にひとしきり殴られたかなたは、橋を渡ってこちらに歩いてきた。私は夜行性のドラゴンのため、かなたがこちらに歩いてくるのはすぐにわかった。 かなたの足取りはおぼつかない。しかし、集落での生活に疲れ果て、とにかくどこでもいいから、集落から離れた所に行こうと必死になっていた。その先は、唯一自分を殴らない、巨大なドラゴンだった。 私は腕を伸ばし、橋のこちら側のたもとまで指を差し出した。暗闇の中、橋を渡り切ったかなたは、私の硬い爪に触れると、それに縋りつくようにしてもたれかかり、そのまま指をソファのようにして丸まって寝入ってしまった。私はかなたを起こさないように、注意深く指でかなたをすくい上げ、私の体の方へ抱き寄せた。  翌朝、集落からかなたがいなくなってことで村人がざわついた。かなたを探す声は谷中に響いたが、当然ながらかなたがそれに気づくことは無かった。 日が高く上るころ、村人が橋を渡ってこちらの様子をのぞきに来た。かなたの家出先がバレたのだ。しかし、私がかなたを抱き寄せて離さず、邪悪な口を開けて睨むと、ひっくり返って集落に帰っていった。 私はもはや、かなたを集落に返すつもりは無かった。指の間で平和に眠るかなたを、安心するまで寝かせておきたかったし、村人たちの暴力のことなんてひと時も思い出させたくなかった。  かなたは夕方になって空腹で起きたようだった。誰かに怒られるかと思ったらしく、ひとしきりじたばたしていた。指の中でもぞもぞ動いてくすぐったい。しかし、かなたを殴る者が周りにいないとわかると、少し落ち着いたようだった。 そうさ、かなたん。お前が家出したんじゃなく、私がお前をさらったんだ。だからお前は悪くない。誰もお前を責めないよ。 数日前にかなた自身が持ってきた貢物を爪で引き寄せて指さした。かなたはその意図を理解したようで、少しずつ食い始めた。 私はそれが無性にうれしくて、なんだか踊り出したくなったんだ。かなたが腹いっぱい食い終わり、またすやすやと寝入ったとき、私はもう、がまんできなかった。日が落ち、星が光り出す夜に、私は前足でかなたを抱き上げ、大空へ飛び上がった。かなたは少し驚いたようだったが、自分に加わる力が暴力ではなく上昇の加速度だと気づき、自身の頭を守っていた腕で私の指をぎゅっと握った。固い握手。イテェ。 「きゃーっっ!!きゃっ!きゃっ!!」 かなたが心底楽しそうに声を上げる。風を切り、雲を抜け、星をつかむほど高く。  起きた。 自分のベッドだ。 都合よく、かなたは共有リビングにいた。無言で近づいて対面し、両腕でかなたの肩をつかむ。 「ちょ、ココ?何?」 びっくりした表情のかなたに、かける言葉が見つからない。『無事か?』?違う。『殴られてないか?』?いや、違うって。『耳聞こえてるか?』?何言ってるんだ。 「……何かあった?」 かなたんの真剣な顔。いけない、かなたんを無駄に心配させてしまう。それはいけない。 「……怖い夢見た。一緒に寝て」 「なあんだココぉ!!甘えちゃって!!」 かなたが破顔する。ちょっと恥ずかしいが、ほとんど本当だし、問題ないだろう。 「よしよし、怖かったんだね」 そうだ。こうして、包んで。包まれて。  二人で星をつかみに行こう。


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 pixivで初めて投稿した二次創作小説です。これの前に、「ゆるゆり」の小説があったような気もしますが、まともに完結していないどころかプロットすら成立してないのでノーカンです。

 投稿の時期的には、桐生ココが断続的に休止していた2020年9月~12月を経て、2月11日の収益化1周年、2月17日桐生ココ100万人達成、2月20日かなたんからSwitchとお手紙のプレゼントがあった後です。

 Twitter上で、「 #twinovel 」「 #ホロ140字小説 」をいくつか書いていたのですが、15年ぶりに長い小説を書きたいと思い至りました。かなココは僕に、創作の楽しさを思い出させてくれました。

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