2021年12月11日土曜日

ホロライブの二次創作設定2(ポルカ)

見てぇ…ポルカがケーキ屋のバイトで寒空の中震えてケーキを売り、クタクタになりながら売れ残ったケーキ1つもらって帰宅し、玄関で靴をぬぐ時によろけてケーキの箱を踏み抜くとこが見てぇよ…


 という「かにぼなーら」氏のツイートが刺さったので、アレンジして、思いつくがままに一篇書いてみました。かわいそうは可愛い。

正確には「設定」というわけではないですが……まあいいか。


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 時刻は、12月25日0時。人もまばらとなった樺幌駅北口の地下通路の中、赤い帽子を目深にかぶった女がいた。

「ケーキ……ケーキ、要りませんか……?」

ポルカは、クリスマスケーキを売っていた。道端や駅の中ではないのは、警官に捕まるからである。そう店長に教えられた。

「ケーキ要りませんか?甘くておいしい、クリスマスケーキだよ。」

足を止める者はいない。手に白い立方体のようなものを持った者すらいる。彼らに、この3,500円の菓子を売りつけるのは、無理と言うものだ。


 ポルカは11月分の家賃と12月分の家賃をまだ支払っていない。食費と光熱費、歌の月謝に圧迫されて捻出できず、12月は日払いのバイトを可能な限り掛け持ちして金を貯めていた。それでも11月分にあと1万2千円がどうしても足りない。12月分に至っては目途すらついていない。

ポルカは、今日中に1万2千円を調達して、26日朝イチに大家に振り込まなければ、家賃を2か月分滞納したかどにより、1月から住む場所が無くなる。それはポルカの夢の終わりを意味する。


7時間前に売り始めた時には、あんなにいた人が、もう数えるほどしかいない。「0時30分までに帰ってこい」と言われている。なるほど、これから粘ってもケーキは売れないだろうし、むしろ生ものは傷んでしまう。

ポルカは、荷物をまとめてその場を立ち去らざるを得なかった。



 カランカラン

CLOSEDが掲げられた店の扉をくぐる音も、今日のポルカにとっては自分を責めるような響きを感じさせた。

「おう、戻ったな。ケーキは売れたのか?」

ポルカは、予想はしていたものの、その言葉に肩をこわばらせ俯いた。

店内を片付ける店長は、まだ店内にいた。日付も替わった店舗には、他に誰もいない。当然ながら店舗でもケーキを売っていたが、他の従業員は23時までに全員帰った。

「おい、ケーキは売れたのか」

店長は、念を押すように繰り返す。

ポルカは、売上金とお釣り入れと持ち出し帳簿を店長に渡した後、店の玄関に隠すように置いておいたケーキを、怖ず怖ずと手繰り寄せた。

「ひぃ、ふぅ、み、…、…」

店長は売れ残ったケーキの箱の数を数え始めたが、数え上げるたびに声が小さくなっていき、ついに無言となった。

「……あの、……あの、……」

ポルカは、体の向きこそ店長の方に向けていたが、顔を上げることはとてもできなかった。売れなかったのは事実だし、もはや申し開きをする余地は無い。


「バイトぉ!!お前、売ってこいっ言(つ)ったのは25個だったよなァ!!なんで11個も売れ残ってやがるんだ!!」

「はいぃ……」

店長の怒号が響き渡る。

今年のケーキの売り上げは、ただでさえ不振であった。ポルカに持たせたケーキ以外にも、店舗売りの分でいくらか売れ残りがあり、それは店舗で業務をしていたバイトに持ち帰らせていた。


「なんで売って来ないんだ!!おい!?11個も、どうしろって言うんだよ!!!?」

「はいぃ……」

本当は店長も、自分で何を言っているのか論理的な思考ができていない。売れなかったものは売れなかった、それ以外なんでもない。しかし、店の経済事情も手伝って、つい怒鳴り声が出てしまう。

ポルカは、自分の責任を思い、何も言えない。声が震える。

「うぅ……すみません……」

「3,500円のケーキだぞ!!25個、9万円入る前提で、店をやってんだ!ここに11個も残ってたら、4万円も足りないんだぞ!!お前の今日の日当の5倍だ!意味わかってんのか!!?」

「ひぐっ……ずみ……すびばせ……」

「てめぇ!!泣いて4万円できるなら俺はいくらだって泣くぞ!!お前!!!?」

「はぃぃ……」

泣きたくて泣いているのではない。自らの力不足と、金銭的な不安とで圧し潰されて、体から水分が絞り出されてくるのだった。

ポルカには、もはや何の策も無い。深く深く首を差し出して、目頭から逆流して鼻梁から伝わる涙を、床にぽたぽた垂らすことしかできない。



 30秒ほど、ポルカには永遠とも思われる長さの沈黙が過ぎた。

店長としても、どれだけ怒っても金が出てくるわけではない。怒りも、時間によって減衰していくものだ。

「はあ……仕方ないな……。お前は今日の日当持って、さっさと帰れ。俺は片づけをするから」

店長はポルカを睨めつけるのをやめて、工房の方に戻って行こうとした。

「てん…店長!!」

ポルカは、しかし、怒られて終わりではない。頼れる人がいない。今のところ、この店長しかいないのだ。

「何だ、ケーキなら持って帰っていいぞ。2つでも3つでも」

「その……」

ポルカは、俯いたまま崩れ落ちるようにその場にうずくまった。

店舗の中央のテーブルに置かれた給料袋には、「尾丸 8,000円」と書かれている。

「店長!!!!4千円貸してください!!!」

絞り出すように叫んだ。

ポルカには、ここでしか、金を調達する手段が無い。ケーキは25日は委託分のみなので、店舗は休みである。今日ここで、店長に頼むしか、ポルカのできることは無い。


店長の顔が、再び険しくなっていく。

「はあ……?お前、何言っているんだ?」

「来月には必ず返します!!家賃がたり……足りなくて……!」

「お前は!!ただでさえ4万円の損害出しておいて!!日当分だけじゃ足りなくておかわりってかァ!!??」

「すみません、本当に……でも、本当に、お願いします……」

「ずいぶんとわがままお嬢ちゃんだなあ!!?おじちゃんが何でも買ってあげようか!!!?あぁ!!!!?」

「すみません、すみません……」

いよいよ店長の声は怒りに震えてきた。

ポルカは店長の靴を前に、額をタイルの床にこすりつける。踏みつけられてもいい、蹴られてもいい。何を犠牲にしても、しがみつかなければならない。



 「尾丸」

一転、店長は静かな声で伝える。

「顔を上げろ、尾丸」

ポルカは涙と鼻水が鼻筋のところで混じり合った汚い顔を店長に向けた。

店長は、真剣な、しかし穏やかな目をしていた。

「俺は18の時にケーキ修業を始めた。その時にお前と同じことをした。お前には、夢が、あるんだな?」

「は……っあ゛い!」

ポルカはぐちゃぐちゃな顔で、しかしこの世で最も美しい瞳で、店長を見つめて応えた。

「わかったよ」

店長は自分の財布を取り出し、紙を1枚差し出して言った。

ポルカは、それを、うやうやしく両手で受け取る。

「最初で最後。1万円だ。お前の夢を応援する。とっておけ。出世払いだ」

「あり……ありぎゃふほざいます!!!!」

ポルカは再度、額を床に叩きつけた。



 クリスマスイブは終わった。世間のカップルは幸せを享受し、小さな子供は期待を胸に眠るだろう。

ポルカは、なんとか調達できた先月分の家賃を大事にしまい、ケーキをカゴに3個も積んだママチャリで帰路についた。

白い息を細く吐く。ポルカは、さっきまで過度の緊張に晒されて感じていなかった寒さを、ようやく意識し始めた。冬至からほんの2日である。雪こそ降っていないものの、寒風吹きすさぶ真冬の空気は、ポルカの体温を確実に奪っていた。貧乏な身で、マフラーはボロボロ、上着も薄いものしか羽織っていない。

ポルカは、情けをかけられたものの、孤独であった。不安とストレスと空腹と寒さは相乗され、ポルカの体力と集中力を削っていく。歯がかみ合わない。


「はぁ…っくしょん!」

交差点を通り過ぎるときに、ちょうど、くしゃみが出てしまった。横断歩道から歩道に乗り上げる瞬間、自転車が揺れて、前カゴに載せていたケーキが1つ、右方の車道に転がり落ちた。

「あぁっ!」

ポルカはとっさに右手を伸ばしてケーキを落とすまいとした。しかしその手は空を切り、逆に自転車はバランスを失い、段差で揺れた衝撃で2つ目のケーキが左方に飛び出した。

ポルカは混乱して両手をハンドルから離してしまった。今度こそ操縦を失った自転車は縁石に衝突し、前のめりに転倒した。ポルカは体を投げ出され、受け身も取れずに顔から道路に叩きつけられた。しかし、幸か不幸か顔面はちょうど投げ出された3つ目のケーキに突っ込んだので、切り傷を負うことはなかった。

周りには誰もいなかった。助け起こしてくれる者も、心配してくれる者も。ポルカは、無言で立ち上がった。自身のけがが大したことがないことを確認すると、無性に腹が減ってきた。3つ目のケーキは、自分の顔と体でぺちゃんこになり、2つ目のケーキは自転車の後方にあった……ど真ん中に自転車のタイヤ痕が残っている。最初に投げ出されたケーキの箱は車道に、あっ、たった今乗用車に踏みつぶされた。



 「うぐ、えぐ、えっ……」

ポルカの目から止め処なく涙が噴き出した。

人生って、こんなにつらいものだったっけ。

しかし、お腹がすいた……

ポルカは、3つ目のケーキの箱の中身の、まだ食べられる部分を手ですくって口に押し込んだ。


----------ケーキ要りませんか?甘くておいしい、クリスマスケーキだよ。


ポルカはその味を堪能することはできず、しょっぱいイチゴと砂利混じりのスポンジケーキを夢中で食べていた。12月25日午前1時30分のことである。



メリー、メリークリスマス。

あなたに、主の加護があらんことを。




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なんか、書いててすごくつらくなってくるんですけど。

まあこのつらい経験の後、修行が実って、夢をかなえつつある、って所でお許しください。


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