2024年5月3日金曜日

二次創作小説「ストロー」


この作品は、2023年4月19日 10:31に投稿された作品です。



~新しいことをしましょう。次のステップへ向け、挑戦をしましょう。
若い人の夢を応援しましょう。世界に羽ばたく人を育成しましょう。
古い因習に縛られてはなりません。グローバルな視野を持ちましょう。
時代遅れの考えを捨て、一人一人が輝けることを優先しましょう。

そのためには、どんな代償をも嫌がらずに、そう、困難に立ち向かうのです。~



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 ある、配信の無い日の夕暮れに、部屋のポストを見ると、若葉色の封書が入っているのを見つけた。
手に取ると、ふわりと、土の香り。
<<風真いろは 様
 奥山村立 奥山中学校 卒業式 へのお誘い>>
奥山中学校は、いろはの出身校である。その中学校の卒業式が、行われる。しかし、
「今、8月でござるよ……?」
その通知は一見、あまりにも時季外れであった。




ストロー




 ポストには、水回りトラブル対応の工事業者のチラシ、ピザ屋のチラシ、粗大ごみ回収業者のチラシ、新聞の勧誘、聖書の一節を書いた一筆箋いっぴつせん等が入っていたが、いろははとりあえず全部を回収して自室に戻ることにした。A4サイズの冊子状の広告をお盆のようにして、全ての紙類を左手にまとめてエレベータに乗り込む。その中でも、奥山中からの通知だけは存在の色を放っていた。

 部屋に入ったいろはは、リビングスペースの低いテーブルに荷物をあけ、傍らのレターオープナーを用いて封筒を開ける。
中には白色度の低い紙が三つ折にして入っていて、公的な文書であることを物語っていた。


<<奥山中学校 卒業生の皆様
                           好暦こうれき4年8月吉日
                             奥山中学校長

 本校卒業生の皆様におかれましては、ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 奥山中学校は、好暦4年度をもちまして、閉校する運びとなりました。>>


「……」
いろはは、冒頭を読み始めてさっそく絶句してしまった。確かに、いろは自身も通っていた時には、それほど多くの学生が集う中学校ではなかった。それにしても、村内唯一の中学校のはずである。奥山村は、中学校を持たない村になってしまうのか。
「そ、っか……」
いろははソファにもたれ掛かった。
受け止めるしかない。


<<来る好暦5年3月9日、第61回奥山中学校卒業式を行う運びとなりました。
 つきましては、卒業式の後に『奥山中学校大卒業式』を催したいと存じます。
 本通知は、ご連絡のつく全ての卒業生に送付しております。>>


 いろはの、また他の卒業生の住所をどこで知ったかなんて、聞くまでもないことだ。
ひとたび村人となった者は、その家族や村役場の職員らの手によって、仕事場や連絡先などは全村民の知る所となる。いろははその常識の中で育ってきたし、コジンジョーホーという概念を知ったのは上京してからだった。

2枚目には、奥山中学校大卒業式に出席または欠席する旨を連絡するための紙が入っていた。7か月も先の式のわりに、連絡期限がなかなかに短い。しかし、半年先のスケジュールまで埋まっているいろはにとって、このくらい前もって連絡をくれるのは正直言ってありがたい。



 いろはが3枚目を取り出すと、それは他の2枚とは全く異なる真っ白でツルツルな紙であった。それだけでなく、タイトルには虹色のワードアートででかでかと「アイドル 風真いろは様 大歓迎」の文字が躍っていた。


<<風真 いろは 様
 奥山村民一同、風真様の昨今のご活躍を拝見しています。
 各種テレビで風真様の姿を見ない日はありません。>>


いろはは少し笑みを浮かべた。「各種テレビ」って。
奥山村では「インターネット」というメディアがあまり浸透していない。映像メディアは全部「映画」か「テレビ」である。
著しくダサいワードアートと文章は、村で暮らしていたころを思い起こさせて、今更ながら伊達や冗談ではなく本当に中学校が閉校してしまうのだという説得力が感じられた。


<<どうかご参加いただき、第61回卒業生の子らと言葉を交わしてあげてください。
卒業生が将来、風真様と同じように世界に羽ばたける存在となるよう、応援してください。>>


一も二も無い。
いろはは、マネジャーに連絡するためにDiscordのダイレクトメッセージを開いた。

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 7か月後。
 いろはは、マネジャーと一緒に卒業式に臨席していた。マネジャーはてっきり、控室のような部屋に通されると思っていたが、なんと一般の参加者と同じ扱いであった。二人とも黒のスーツで目立たない格好をして、何の変哲もないパイプ椅子の席に案内された。
もちろん、人口数百人の村にいろはたちがやってきたら、化粧や派手な格好などしなくても有名人であることは当然わかる。しかし、卒業式の間、村民はいろはを一人の参加者としてしか扱わなかった。

(いろはさん、大丈夫ですか?周りにヘンな人いませんでしたか?けられてたりとかは?)
(大丈夫だよマネちゃん……今のとこ、マネちゃんが一番変な人だよ)

しきりに小声でいろはに注意を促し、周囲をうかがうマネジャーは、その場ではかなり浮いていた。いろはを含む参加者の大半は、その人生の一部の時間を村で過ごしたのに対し、マネジャーは東京生まれの東京育ちだから無理もない。所在なくスマホを見てみても、3Gを示す回線の読み込みは円を描くばかりで、時計程度にしか役に立たない。



 いつもはだだっ広いばかりの体育館も、二百人も人が入ればちょっとしたイベントだ。起立、礼の一つ一つに、無意味にも拍手が沸き起こる。

マネジャーにとって、その卒業式は珍しいことばかりであった。
「いろはさん、なんで、体育館のステージの上にお子さんの椅子があるんです?」
「あれは卒業生が座る椅子だよ。普段は在校生がステージの下にいるんだけど、もう、在校生はいないから……」
「へえ……」

第61回奥山中学校卒業式は、ステージの上だけで完結していた。
校長も、教頭も、担任も、卒業生も、全員がステージの上にいて、ある意味臨席者の見世物のようになっていた。しかし、たった2名の卒業生はステージ下には目もくれず、堂々と国歌と校歌を歌い、厳かに卒業証書を受け取る。
一人は「あさ」、髪の長い女の子。もう一人の髪を短くした女の子が「ゆめ」といった。いろはは彼女らが双子であろうことはわかったが、苗字までを聞き取ることができなかった。卒業式は全体として「あさちゃん、ゆめちゃん」で進められており、ついぞ苗字を知ることは無かった。
あさとゆめは、村内でただ二人だけの中学生であり、見られることには大変慣れていた。それに二人は、卒業式が終わった後の段取りに早く移行するために、キビキビと動くことに集中していたのだ。


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 まるで合唱コンクールのように「仰げば尊し」と校歌を歌いあげた卒業式が終わると、いろはとマネジャーは準備のため女子更衣室に移動した。体育館では引き続き大卒業式が行われるが、他方3年生教室ではあさ・ゆめ両名といろは、それとマネジャーの4人で語り合う「お楽しみ会」が非公式に開かれるのだ。
村側が気を使ったのか、それとも単純に機材を用意できなかったのか、「お楽しみ会」の内容は全て完全にオフレコという取り決め。いろはのギャラは、校長と双子の両親が出すらしい。その額は一般的なオファーの百分の一に満たなかったが、いろはは快く受けた。むしろ、ギャラを拒否しようとしたくらいだった。

「楽しみですね、子供たちとのお話」
「き、きんちょーするでござるよぉ、マネちゃん……」
ファンとの交流は、普段画面を通して行っている。それが今日は握手を含み、存分に語り合うことができる。
「大丈夫ですよ、いろはさん。二人とも、いろはさんのこと大好きだって、言ってたじゃないですか」
「だからだよぉ……」


 いろはたちが身支度を整え、教室の戸を開けると、生徒は既に座って待っていた。いろはのまぶしく光る白い隊士服に、あさとゆめは同時に立ち上がった。
「こ、こんにちは!……目おっきい……」
「こん…にちは……かわいい……」
「こ、『こんにちは、でござる!ホロライブ6期生、holoXの用心棒、侍の、風真いろはでござる~!』ゆめちゃん、あさちゃん、こんにちは!」
あさとゆめの目が、更に大きく見開かれた。
「ほん、本当に、本物の風真いろはさんですか!?」
「本物の、"テレビ"で見るいろはちゃん!?」
「本物ですよ。私が保証します」
都会的なマネジャーは、バッチリ衣装を着こんだいろはその人よりも現実味を持たせる効果があったようだ。あさとゆめは手を取り合ってわぁっと声を上げた。
「むぅ、かざまが自己紹介しても信用しなかったのに…なんでぇ?」
「あっ、生『なんでぇ』!」
「『なんでぇ』助かる!!」
いつものコメントに、いろはの緊張も和らいだ。


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 いろはは、ファンとのふれあいイベントで1分程度のお喋りをしたことはあったが、今日は30分という長時間である。カッチリとした台本は無く、ごく普通な雑談。
あさとゆめの方は、いろはが来ると知った日から、何を話そうか、どんなことを聞こうかとメモを用意してきた。何を聞いても親切に答えてくれるいろはは、少女たちにとって憧れのお姉さんである。質問攻めと溢れるパッションに触れ、マネジャーはトークデッキを書いた手帳をカバンに仕舞った。

 それらの話が、一段落した所であった。

「いろはちゃん、私たちも…」
あさが、ゆめの方をちらっと見やった。
ゆめがコクリとうなずき、口を開いた。
「私たちも、東京に行けば、いろはちゃんみたいになれるかなあ?」
「か、かざまみたいに?」
いろはは、目を輝かせた二人に見つめられたが、その意図が理解できず聞き返した。
「いろはちゃんって、みんなに人気のアイドルでしょう!?」
「私たちも、アイドルになりたいの!」
「あ、えっと……」
この席の話の中で、既に話している。『上京しても、すぐに有名になったわけではない。holoXの面々と会って、更にホロライブに加入するまで、「アイドル」なんて考えてもみなかった。』
「きっと、なれ……うぅん、わかんないよ」
「えぇ~!でも、いろはちゃんは、今スッゴイかわいいよ!?」
「私たちも、いろはちゃんみたいに"テレビ"に出て人気者になりたい!!」

いろはは、考える。
確かに、自分は上京して、結果的に有名人と評される存在になった。
では、彼女らも”世界に羽ばたける人”になるために、東京に出ていくべきなのだろうか?
”その結果”が、今日執り行われている”大卒業式”なのではないか?

 「あささん、ゆめさん」
さっきまで、三人を交互に見ているだけだったマネジャーが、久しぶりに口を開いた。
「『特別な人』になりたいですか?」
「「はい!!」」
マネジャーは小さくうなずいた。
「あささん、想像してください。今、目の前に1万個のリンゴがあります。どれもとてもおいしそうです。『この中から、1つあげます』と言われたら、どうしますか?」
「えっ……と?」
「一番きれいなのを取ります」
あさが逡巡している間に、代わりにゆめが答えた。
「そうですね。ゆめさん。でも、どれがいいか、と1万個も確認はできません。せいぜい、直接見て選ぶのは50個です。あなたは50個の中で最も美しい1個のリンゴを手に入れました。ところで、残りの9999個のことは、気にも留めませんよね。しかも、そのうち9950個までは、目の端にすら入れていません」
あさも一緒に、うなずいた。
「いろはさんは、その、選ばれたリンゴなんです。他の残りは、『何者でもありません』。これ、わかりますか?」

さっきまできゃあきゃあ言っていた二人は、ぎゅっと押し黙った。
「東京で『特別』になるためには、『特別じゃない人』になる覚悟がないと、できません」
二人は、いろはを見つめた。いろはは、咄嗟に自身の存在を隠したくなって、目線を逸らした。いろはが有名なアイドルになったから、二人はその後を追おうとしている。それが夢のある事なのか残酷な事なのか、いろはには判断できなかった。

「でも、知っていますか?二人とも」
二人は、不安そうにマネジャーを見つめた。
「あなた方はもう、『特別』なんです。さっきのステージ、まるでアイドルでした」
「アイドル……?」
「私たちが?」
「こんな村で?」
あさもゆめも、ピンときていない。
「私は、マネジャーとして、『特別』を作る仕事をしています。その私から見ても、今のあささんとゆめさんは、歌ったり踊ったりしなくても、十分『特別』ですよ。さっきの卒業式で、はっきりとわかります」
マネジャーは、少し失望したような目をして続けた。
「でも、逆に東京に出てきたら、なんの珍しさも無い『都会に憧れて出てきた田舎娘』です。アイドル事務所か声優事務所の良いカモですね」
あさが、何か言おうとして身を乗り出す。しかし、ゆめがシュンとなっているのを見て、矛を収めた。
「すみません、意地悪な言い方でしたよね。でも、本当にそうです。『あなたたちをアイドルにしてあげる。プロデュース料を、年間300万円払え』くらい、いくらでも聞く話です。あなたたちの目指す『特別』は、お金で買うものですか?」

 いろはは、マネジャーを見た。
嫌な役を一手に引き受けるのは、常日頃、マネジャーの役目である。
マネジャーは、いろはに小さくウィンクし、いろははそれに応えてうなずいた。
「ゆめちゃん、あさちゃん。『特別』って、どんな人になりたいでござるか?」
マネジャーにやられ、ゆめが発言するのに少し時間がかかっていた。
そんなときに、いち早く復活するのはあさである。
「みんなを、私を見たみんなを、笑顔にすることです!」
「……私も!あさと同じ」
あさとゆめは、見開いた目で宣言した。
「あささん、ゆめさん。あなた方は、”村に2つしかないリンゴ”です。選ばれる、選ばれないの次元ではありません……つまり二人は、この村にとって、大事な、大事な、かけがえのない存在です。替えが効かないあなた方は、将来にわたって一生、村の人に大事にされるでしょう。
もしも、何かやりたいことがあるのならば、東京や、都会に出るのもいいと思います。でも、あなた方双子でしかできないことが、ここにはある。それを忘れない方がいいと思いますよ」
「わかりました」
「ありがとうございました。マネジャーさん」
二人は、マネジャーに礼をした。

 「いろはちゃん」
あさが、少し遠慮気味に問いかけた。
「東京……って、楽しいものがいっぱいあるんでしょう?」
いろはは、一度「うん」と言ったが、その後ゆっくりと首を横に振った。
「色々あるけど、すぐに変わっちゃうんだ。タピオカミルクティーがガレットになって、食パン屋になって。周りがくるくる変わりすぎて、迷子になってしまうでござるよ」
「東京は、そうなんだ……でも、この中学校は、なくなっちゃって、次は無い。東京に行けば、楽しいものは、何でもある。"テレビ"が言ってるもん」
いろはは、ゆめとあさの肩を片方ずつ掴んで、目線を合わせた。

「約束するでござる。
holoXが、日本全国、いや、世界中どこにいても、東京にも負けないくらい楽しくするって。
お父さん・お母さんにこれだけは頼んで。『スマートフォンを買って』って」
ニコと微笑んだいろはは、
「スマホさえあれば、どこででもテーマパークにしてみせる!」
そう言って、雄々しい笑みを浮かべた。
世界征服に燃える輝きがあった。



 教室の扉がガラッと開いて、いろはたちを案内してくれた教師が顔をのぞかせた。
「あのぉ、お時間ですけど……?あっ、もしよろしければ、まだお話ししていてくださっても……」
その言葉に時計を見ると、いつの間にやら、1時間以上経っているようだ。
「かざまたちは、まだ大丈夫でござるが……ね?」
「ええ、そうですね」

「大卒業式、まだやってますか?!」
「えっ?ええ、昔話をしたり、歌を歌ったりしてますよ」
いろはたちの向かい側の椅子は、揃って引かれて音を立てた。
「ありがとうございました。いろはちゃん、マネジャーさん」
「私たち、今日しか会えない人たちがいるから、行かなきゃ」
いろはが顔を上げると、先ほどよりも少し歳を取った少女たちの顔がまぶしく見えた。
「そっか。いってらっしゃい」
「ありがとうございました!」
「またね!」
あさとゆめは、1秒でも惜しいと言うように廊下へ飛び出て、風のように去っていく。
いろはとマネジャーも、丁寧にその場を辞去し、大卒業式には寄らずに帰途に就いた。


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「いろはさん」
帰りのバスで、マネジャーはつぶやくように言った。
「私、あの子たちの夢、摘み取っちゃったんでしょうか?」
子供の前に立ちふさがる大人は、大人本人が思っているよりもずっとずっと影響が大きい。マネジャーがさっきからずっと不安そうにしているのを、いろはは見ていた。
「マネちゃんは、間違ったことは言ってないよ。かざまが言っても説得力無いことを、ちゃんと言ってくれたでござる」
成功者は、「成功した例」として見られる。全員がその成功を得られるわけでもないのに、成功者の輝きは、人の目をくらませる。

「二人が、大卒業式に行って村の人に顔を見せてくれて、ほっとしています」
「かざまも」
双子は、村外の高校に通うことになるという。日常の不便と交通費を避けるために、両親と一緒に引っ越しをするのだという。
アカウントが用意できたら、お話ししようねと約束した。



いろはは実家には寄らずに東京に戻った。
夕方にホロメンと買い物をするために渋谷に出かけるし、その後お泊りオフコラボを予定しているし、明日はスタジオで3D収録があるからである。


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第0回ホロクリエイターテーマ企画 @HOLOcreater0219 参加作品として、投稿しました。pixiv投稿版よりもエグ味を強くしました。
双子、いろは、マネジャー、そして村人、それぞれの立場で異なる思いがあるのを感じ取っていただければ幸いです。

「ストロー」という題は、「ストロー現象」から採りました。"東京"に出て、多くの人に注目される存在になった少女は、田舎出身であるにもかかわらずアイドルとして成功することで"東京"の魔法に染まってしまい、自身ではその"魔力"を全く制御できていない……そんな様子を描きました。これは"東京"で制作されるテレビ番組や、多くのものを象徴しています。
田舎の人々がVTuberの活躍を「テレビ」と表現しているのは、そもそも田舎の回線ではYou Tubeをまともに見られず、テレビでしか見ていないからです。いろははそこに思い至らずズレたお願いをしていますが、大人であるマネジャーは東京育ちですが普遍的な価値を見出してまだマシな言葉をかけています。
キャプションは諦めの境地の村人の気持ちです。双子は、もはや村内に帰ってくることは無いと諦め、それでも村に縛り付けるのではなく夢を持って未来を生きてほしいという親心です。

固有名詞は「いろは歌」から採っています。
架空元号「好暦」は、和暦でこれまでに使用されたことが無く、元号っぽく、M,T,S,H,Rのいずれでも始まらないものを考えました。出典は考えてません。一応「光文」を避けています。

2024年4月21日日曜日

二次創作小説「その耳に惹かれて」

その耳に惹かれて
この作品は、2022年10月29日 12:14に投稿された作品です。

~ケモ耳、ケモ耳、見渡す限りのケモ耳天国。
ホロライブは、なんて素晴らしい楽園でござるか!~


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Koyori's Turn

 「ぐっ……」
フブキ先輩が数枚のカードを扇形に広げて歯噛みする。
そんなににらんでも、置けるカードが増えるわけではないんですよねぇ。

 今日の分の収録が思いのほか早く終わって、中途半端に時間が余ってしまったボクらは、スタジオの楽屋でトランプ大会を開いている。事務所からのお迎えはまだ来ない。
今日・明日と同じスケジュールなので、この機会に先輩たちとオフでたくさん遊べる絶好の機会だ。


 「フブキ、置けるの?置けないの?」
「……」
ミオ先輩に促されても、フブキ先輩はまだうなっている。それもそうだ、ここで負けたら総合最下位が決定、罰ゲームが確定しちゃうから。
「フブキ先ぱぁい、もう諦めましょうよぉ」
「むむむ……パス、です……」
追い討ちで急かして、さすがのフブキ先輩もようやく降参。この七並べのルールは、パス5回まで。6回目のパスを宣言したフブキ先輩は、これで自動的に4位となってしまった。

 「負けた……完膚なきまでに……」
フブキ先輩は手持ちのAやQ、Kを手元に広げ、がっくりとうなだれた。
「あら~、フブキ、今日はツイてないねえ」
「負けが込んでますね、フブキ先輩」
ミオ先輩が自分の手札を横に置いて、フブキ先輩の手札だった数枚のカードを盤面に丁寧に配置していく。とは言っても、端のカードばかりなので、他の人が置けるカードが増えるわけではない。ミオ先輩が体を起こすと、13×4のカードの列が見やすくなった。

 「いろはちゃん、置けるぅ?」
敗北の幕が一段落して、次の順番はいろはちゃん。4人の中で一番パス回数が少なく、手札の残りは1枚。
「フッフッフ……じゃあ遠慮なく、出させてもらうでござるよっ!」
いろはちゃんが、手に持っていた最後の1枚、ハートの6を静かに貼り付けるように置く。
「あっ!?」
ハートの下の方が全然出せなかったのは、いろはちゃんが止めてたのか!
「ぃやったああああ!!!上がりでござるぅぅ!!!」
「いろはちゃん強ぉ!?」
「大貧民もスピードも1位だったよね!すごいすごい!!」
ミオ先輩は目を細めて体を横に揺らす。こよも思わず拍手しちゃった。ゲームはあまり自信が無いと言っていたいろはちゃんも、今日はトランプなので大活躍!
こよもミオ先輩も総合成績はほぼ順位が確定しているから、七並べの手札は置いておいて拍手。フブキ先輩は更に両手をグーにしてテーブルに臥せった。
「強すぎるよおおお風真殿おおおおおおお」
「よっ、いろはちゃん、三冠王!」
「あっぱれ!わぉーん!!」
「ありがと~~でござる~~~!」
やいの、やいの。
いろはちゃん、虫も殺さぬような顔をしながら、戦略に長けた女。holoXの頭脳の座を奪われかねない……!


 ミオ先輩とこよが消化試合を片付け、お楽しみタイム!
「成績発表~~~!!!」
本来はフブキ先輩のセリフだったけど、フブキ先輩との阿吽の呼吸でこよが音頭を取る。
「おっ、このコヨーテ、ネタがわかってるねえ」
「むふふ、当然ですよキツネ先輩」
一度やってみたかったんだよねえ、これ。
いろはちゃんがちょっとビクッと肩をすくめてこよを見る。あっ、通じなかった……?
「あんま気にしないでね。こよもフブキも、『一生のうちに言ってみたいセリフ』がいっぱいあるんよ」
「はあ……、フブキ先輩とこよちゃんは色んな事知ってるでござるなあ…」
ミオ先輩が眉を寄せながら小声で声をかけてくれてる。よかったぁ、フォローお任せします!
物事は勢いが大事。流れを切らないように、声を張る。
「では、優勝者から発表します!優勝はぁ、風真いろは!!あっぱれー!!ドンドンドン、ぱふぅぱふぅぱふぅ!!」
「わー、ぱちぱちぱちぱちぃ」
「よくやったー!」
三人の拍手と称賛に、ちょっと戸惑いながらもはにかんだ笑顔のいろはちゃん。あああ、可愛いいいいい。
「いろはさん、喜びの一言をどうぞ!」
こよはマイクをいろはちゃんに向ける。
「え、えっ、な、なに言えばいいでござるか?」
「何でもいいんだよぉ。言わないと締まらないの!」
いろはちゃんは、いつもはあまり前に出るタイプじゃないけど、強めに押したら協力してくれる優しい所が可愛いんだよねぇ。
「えっ……と、嬉しいでござる!!」
わぁっ、と一層の拍手で讃える。

「では!続いて最下位の発表です!!みなさんお気づきのとおり、フブキ先輩です!!!」
「わー、ぱちぱちぱちぱちぃ」
「やっちまったー!」
ミオ先輩とフブキ先輩が、ワザとさっきと同じようにぱちぱちぱちと拍手しながらリアクション。
「えっ?えっ?」
いろはちゃん、再び困惑。
「ハイ、では敗軍の将、お願いします」
マイクをフブキ先輩へ。
フブキ先輩はわざとらしく神妙な顔をして。
「う~ん、もう少しプレイングに幅を持たせられたらよかったんですがねえ~。来期の活躍を期待したいものです」
「解説かよっ!」
「アハハハハハハハ」
「ふふっ、ハッハッハッ」
きれいなツッコミも決まった。
息ピッタリで気持ち良い。フブミオにこよいろ、大先輩を相手にうまくお話しできるか不安だった時が嘘みたいだ。


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Iroha's Turn

 嵐のような盛り上げ方だったでござる。
こんなに楽しい集まりにできるなんて思ってなかった。フブミオ先輩方もこよちゃんも、本当にすごいでござるなあ。
「ハハハハ…はぁ~笑いすぎて疲れちゃった」
「そうですねぇ~」
「いやあ、面白かった!じゃあ終わりだね!お疲れ!!」
「いやフブキちょっと待て」
そろり、そろりと逃げ出そうとするフブキ先輩を、ミオ先輩が呼び止める。
「え?ま、まだ何かあったっけぇ……?」
「とぼけるな白上フブキ!今回は罰ゲームがあるだろうがあ!」
「ぁ……ぃゃぁ、ヨクオボエテナイナァ……」
振り返る姿勢のまま、変な上擦り方の声で罰ゲームを怖がるフブキ先輩。耳がぴょこぴょこしてて可愛い上に面白い。アイドルとしてこれ以上ない。
「こよ!罰ゲーム内容は何だっけ?」
「はい!罰ゲームは、『優勝者のお願いを何でも一つ聞く』です!!」
フブキ先輩は目を「><」の字にして「ァアーーーー」と声にならない小さな悲鳴を上げる。
可愛い。フブキ先輩。

「優勝のいろはちゃん!」
「はっ、はい!でござる!」
「フブキ先輩に何でも一つ、お願いしていいよ!!」
こよちゃんが手の平で指す先には、両手で頭を抱えて審判の時を待つ白い狐がいた。
元気はつらつのフブキ先輩が弱弱しい姿をしてるのも可愛い。
そのフブキ先輩に、何でもお願いできる??想像してこなかったでござる……。
「いろは、何でも言っちゃっていいんだよ」
「そうそう、まあ、いろはちゃんのことだから、そんなに過激なことは言わないだろうけど」
「オテヤワラカニ……オネガイスルデゴジャルゥ……」
フブキ先輩の人間の方の耳が、真っ赤になっていく。何か恥ずかしいことをされると思ってるでござるか?
改めてフブキ先輩の全身を見ると、全体としては可憐な白髪の女の子だけど、やっぱりケモ耳と尻尾が目立つ。防御体制のフブキ先輩の尻尾は体にぴったりとつき、耳はぴぃんと緊張してる。
よく見ると、耳の先がちょっと赤らんでる。
あそこは、どんな肌触りなんだろう。
ふにふにしてるのかな。
毛でちくちくしてるのかな。

 触りたい。

「ケモ耳を、モフらせてほしいでござる!」

「おぉ~」
「なるほどー」
「み、耳ぃ!?」
ミオこよは完全に他人事だけど、フブキ先輩は大きな声で反応した。こめかみあたりを押さえていた手が、頭上の狐耳の方を隠すように掴む。
「いやあ、実は風真、ミオ先輩もフブキ先輩も、お耳可愛いなあ~っていつも思ってたでござるよ」
「いろは、ケモ耳好きって言ってたもんね」
「そんな!ボクの耳いつも…いや時々…たまぁに触らしてあげてるでしょ?!」
「それはそれ、これはこれでござるよ」
こよちゃんの耳を、数度触らせてもらったことはある。あれはとても良いものでござった……。
しかしケモナー侍としては、世の全てのケモ耳に顔をうずめてみたいと考えるのは自然なことでござる。
「ケモ耳だったら誰でもいいの?!」
「ケモ耳に貴賎なし。全てのケモ耳は平等に尊いでござる」
なぜか抗議してくるこよちゃんに真顔で説明。
十人十色、ケモ耳も三者三様でござる。
「えぇっと……じゃあいろはは、フブキの耳をモフモフしたいってことね?」
「はい!モフりたいです!!」
右腕を真っすぐ挙げて応える。なんだか、元気の良い小学生になったみたい。ケモ耳モフれるなら小学生にも幼稚園児にでも何にでもなるでござるが。我々ケモ耳同好の士は、スポーツマンシップにのっとり、正々堂々とケモ耳をモフることを誓います。
……こよちゃん、そんなに立派なケモ耳を持ってるのに、唖然とされても困るでござるよ。

「フブキ、良い?」
「……あの、耳は……敏感で…」
耳を抱えて半分涙目になっているフブキ先輩に、穏やかに訊ねるミオ先輩。
優しいのに、シャキシャキと話を進めてて、かっこいい。あと耳もかっこいい。
「……でも、ダイジョブ、です……」
「大丈夫?無理してない?」
「…!!」
両手で耳を折りたたんだまま、フブキ先輩は目をつぶってコクコクと頷いてる。
かっ、可愛いいいいい!!
「何あの可愛い生物……」
「でござるなぁ……」
「いじめたい気持ちはちょっとわかるかも」
「別にいじめたいわけではないでござるよ?」


 フブキ先輩がうつむきながら、近づいてきて椅子に座る。
「か、風真殿、どうぞ……」
「それでは、失礼するでござる」
こよちゃんの耳をモフモフさせてもらった時は、お辞儀をする格好のこよちゃんの頭上にかざまが手を伸ばして、ちょっと触るだけだった。
それがこんなにも、堂々とケモ吸いができる!!ケモ耳好きにとって、これほどの幸運はないでござる。
ささやくように、つぶやくように「いただきまぁ~す」と言いながら、フブキ先輩の頭を抱きかかえる。ケモ耳の間のつむじの部分に鼻を近づけると、ちくちくした毛が顔に刺さって、ちょっと痛い。それはしょうがないものとして、スゥゥゥーっと大きく息を吸った。人間とも完全な獣とも違う、複雑な香り。鼻と胸が熱を持ち、かざまの口からため息が漏れた。
フブキ先輩の「あっ…」という可愛い吐息が、かざまの胸に当たる。外野からも「おお、大胆……!」「んっ……」と少し声が聞こえる。でも今は、そんなことより目の前のケモ耳に全集中でござる。
頭の向こう側に回していた手を片方外し、右耳を触ってみる。つまむと、ふにふに、コリコリと中身の軟骨が手に当たる。耳の外側も内側も、硬い毛がびっしり覆っていて、なんだか想像と違う。皮膚が薄い部分のすべすべした感じがあると期待していたけど、色が黒いだけで同じような毛が生えている。
耳の更に奥には、更に多くの毛が生えていて、鼻を近づけるとさっきよりも強くチクチクして、ためらってしまった。

 そうだ、かざまはこよちゃんの耳を想像してたんだ。耳の内側に柔らかな肌がのぞいていて、白くふわふわな綿毛のような毛が密集しているこよちゃんの耳。それをかざまは、いつも吸ってみたかった。でも、フブキ先輩のケモ耳はそういう感じじゃないみたいだ。さっき自分で言ったじゃないか。ケモ耳は十人十色、みんな違ってみんな良いんだって。
右耳を中途半端にさすりつつ、左耳を包むように触ると、また違和感があった。指に当たった金属は、フブキ先輩のチャームポイントのピアス。手全体でケモ耳を感じようとしていたのに、そのピアスに「私は『かざまの』ではないよ」と言われているみたい。
そっかあ。これはかざまのではないのか……。
自分で希望して吸い始めたのに、ヘンなの。

気を取り直して。
耳よりも尻尾の方が、気持ち良い手触りかもしれない。お耳を触っていいなら、尻尾くらい減るもんじゃないでござる、よね?
身を乗り出して、フブキ先輩の背中に張り付いた尻尾に手を伸ばす。


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Mio's Turn

 「か、風真殿、どうぞ……」
「それでは、失礼するでござる」
いろはがフブキの頭をそっと抱きしめる。フブキからすると、いろはの胸が押し付けられてるんだよね。それは、なんだか、特殊な秘密の逢引の現場みたいに見えて、「おお、大胆……!」だなんて声が出ちゃった。
しかし、勝者の権利だ。存分にやりたまえ、いろは。

 改めてだけど、いろはのケモ耳好きはホンモノだったみたい。頭を吸ってみたり、夢中で耳をいじったりして、気持ちよさそうだ。「ねこ吸い」とか「うさ吸い」とか言うし、みんな獣の体臭を嗅ぐのが好きなのかな。かく言ううちもネコはたまに吸う。その後すごぉく機嫌が悪くなるから、本当にたまにね。
「んっ……」
こよりの声。
いろはに見入っていて、こよりの様子がおかしいのに気が付かなかった。
こよりはちらちらと二人を見たり、手元を見たり。両手を組んで何かに耐えているみたい。その握った手は、フブキから漏れる「あっ」とか「ひゃっ」とかいう声があるたびに、強く力が入る。
歯医者にかかったときに、歯が痛むと手に力が入るみたいに。
でも今、こよりが痛んでるのは……心、か……。


 どうすればいいか少し悩んでいると、あれっ?いろはがフブキに覆いかぶさるようにして、背中に手を回そうとしてる?!
「ストーーーーーーップ!!」
たまらず大きな声を出して、いろはの腰を掴む。
「罰ゲームは耳だけの約束でしょ!」
「あっ、バレたでござるかぁ。でへへ」
このタヌキ、ちょっと目を離したスキに何を企むかわかったもんじゃねえな。
引き剥がして、めっ、とやる。
「ふぁぁあ」
一方、いろはの胸から解放されたフブキは、ぽわんとした顔をしていた。頬が赤く、口をぽかんと開け、目線は遠く上方を見て焦点が合っていない。いろはの胸を顔全体で感じていたら、こんなにも魂が抜かれてしまうのか。いろはは美人で清楚で声も可愛くて良い匂いがしそうで……

……ホントにどいつもこいつも……!!
なんだかふつふつと、怒りというか、焦りというか、変なモヤモヤがうちの中に生まれてきてしまった。
衝動的に、フブキのだらしない顔を両手で覆う。これは他人に見せていい顔じゃない。
「フブキ!」
「はっ、ひゃはい!」
「ちょっと、こっち来なさい!いろはは、こよりとお話しして!!」
同期の仲なら、細かい指示をしなくても何とかなるでしょ!
まだ切ない目をしていろはを見つめるこよりに、いろははどんな言葉をかけるんだろう。いろは、鈍感そうだから、ちょっと心配だけど。
「トランプはこれで解散!こより、いろは、また後でね!」
「は、はい……」
「はい、でござる」
フブキのケモ耳を強めにつまんで、強引に立たせて隣の楽屋に連れていく。
「ま、待って、待ってよミオぉ」
「これが待てるかってんだ!」
ああ、心臓がバクバクいっている。フブキがあんな顔するからいけないんだぞ。
一刻も早く、フブキの目を開かせなきゃいけないんだ。

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Fubuki's Turn

 小鳥の鳴き声が響く翌朝。
普段ならまだ眠い時間だけど、昨日と同じ時間でお仕事だから少しはマシだ。
「おはようございま~す」
ミオと一緒に事務所のドアを入る。昨日と同じメンバー、こよりちゃんと風真殿が揃っていた。
「フブキ先輩、ミオ先輩!おはようございます~でござるぅ」
「おはよーこより、いろは」
「こんこよでーす!……ミオ先輩、なんだか今日は……」
こよりちゃんがミオと私の顔を見比べて、いたずらを思いついたようなニヤーッとした目つきになる。
「……ゆうべはお楽しみでしたね?」
「うっぐ!」
即バレ!!?
「あははぁ、まあねぇ」
ミオまで!少しは隠して!!
と言っても、私の服が昨日と同じなので言い訳のしようがない。恥ずかしいやらツッコミたいやら、顔から火が出そうだ。
ミオはつやつやした満点の笑顔でこよりちゃんと見つめ合っている。昨日は久しぶりに、ミオが耳やら尻尾やらいじってきて、大変だったんだからね?私は私で、ミオのふわふわの胸を堪能して天国を味わいましたので文句はありませんけども。
相棒の横顔を見ながら、昨日の私に襲い掛かる狼を思い出す。
ミオに火が付くと、誰にも止められない。昨日は別室に移動するや否や、無言で唇を貪られた。楽屋とはいえまだ仕事場にいることなんてお構いなしに、ミオの熱を直に注ぎ込まれた。風真殿の胸の感触なんて、吹き飛んじゃった。
事務所に移動する間も惜しんで直帰して、ミオの家に泊まって、……
思い出すだけで頬が熱くなる。

 「そ、そういえば!風真殿は昨日あの後どうしたの?そのまま帰り?」
「あぁ~、そのことでござるが……」
今気づいた。こよりちゃんの笑顔も、めっちゃつやつやしてる。ミオと同じだ。
「こよちゃんが急に、かざまに『ボクの耳もモフモフして!』って言ってきたでござる。かざまはもちろん、モフれて嬉しかったでござるが」
風真殿は、てかてか笑顔のこよりちゃんを少し見て。
「お耳触らせてくれても、いつもはホンの一瞬だけなのに、昨日は永遠に触らせてくれたでござる。『好きなだけ触っていいよ』って……。なんでぇ?」
「いろはちゃん」
良い笑顔のこよりちゃんは、風真殿の顔に近づいて言う。
「次にケモ耳をモフモフしたくなったら、『いつでも』、こよに言ってね。『いつでも』、だからね」
「えっ、は、はい」
とびきりの圧をかけられた風真殿は、それでも真意がよくわからず、きょとんとした可愛い表情を浮かべるだけだった。


 「ミオ先輩」
「ん?なに、こより?」
「昨日は本当にありがとうございました」
こよりちゃんは深々とミオに礼をする。風真殿とたくさん仲良くできたんだろうなあ。今後風真殿には手を出さないようにしよう。後がこわい。ミオも、こよりちゃんも。
「おかげで、素直になれました。色々と」
「アハハ…いやぁ、お役に立てたなら何よりだよぉ」
ミオが気恥かしそうに照れて笑う。
普段は皆を包み込むママ、ツッコミやゲラで皆の良さを引き出すバイプレイヤー、しかしてその本性は……

頭上には、ホロライブで一番大きく、存在感のある耳がある。
昨晩は余裕が無くて、ミオの勢いが激しすぎて、手にできなかった黒い花弁。
その耳に惹かれて、思わず手を伸ばしかけた。


 ガチャっと、扉の開く音。
「白上さん、大神さん、博衣さん、風真さん、揃ってますかー?」
「あっ、スタッフさん?」
「揃ってますー」
技術スタッフの人が待ち合い室に入ってきた。
「午前中からすみませーん、では、こちらも移動の準備ができましたので、車の方行ってもらっていいですか?」
「わかりましたぁ」

 手を引っ込めて、その手で荷物を持ち上げる。
私がミオの耳を触ったら、ミオも気持ち良くなるのかな。

でもそれは、今じゃない。
DiscordのDMに『今夜も泊まっていい?』と下書きだけ書いて、送ろうかどうしようか、1日中たっぷり悩んでいよう。

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ホロクリエイター @HOLOcreater0219 の企画第6弾参加作品として、投稿しました。
「朝チュン」テーマ、でもR-18は禁止と言うことで、ボディタッチ程度の作品を考えました。いろはがケモ吸い好きなのでこよいろ、二人だけだと濃密な雰囲気になりづらいのでフブミオも追加しました。かなココも良いけど、フブミオも良いですね。

いつもは『目を「><」の字にして』のような、文章表現以外の書き方はしないのですが、フブキのホロライブでのコメディ的な場面での表情を表現するために、わざとこのようにしました。