2024年5月3日金曜日

二次創作小説「ストロー」


この作品は、2023年4月19日 10:31に投稿された作品です。



~新しいことをしましょう。次のステップへ向け、挑戦をしましょう。
若い人の夢を応援しましょう。世界に羽ばたく人を育成しましょう。
古い因習に縛られてはなりません。グローバルな視野を持ちましょう。
時代遅れの考えを捨て、一人一人が輝けることを優先しましょう。

そのためには、どんな代償をも嫌がらずに、そう、困難に立ち向かうのです。~



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 ある、配信の無い日の夕暮れに、部屋のポストを見ると、若葉色の封書が入っているのを見つけた。
手に取ると、ふわりと、土の香り。
<<風真いろは 様
 奥山村立 奥山中学校 卒業式 へのお誘い>>
奥山中学校は、いろはの出身校である。その中学校の卒業式が、行われる。しかし、
「今、8月でござるよ……?」
その通知は一見、あまりにも時季外れであった。




ストロー




 ポストには、水回りトラブル対応の工事業者のチラシ、ピザ屋のチラシ、粗大ごみ回収業者のチラシ、新聞の勧誘、聖書の一節を書いた一筆箋いっぴつせん等が入っていたが、いろははとりあえず全部を回収して自室に戻ることにした。A4サイズの冊子状の広告をお盆のようにして、全ての紙類を左手にまとめてエレベータに乗り込む。その中でも、奥山中からの通知だけは存在の色を放っていた。

 部屋に入ったいろはは、リビングスペースの低いテーブルに荷物をあけ、傍らのレターオープナーを用いて封筒を開ける。
中には白色度の低い紙が三つ折にして入っていて、公的な文書であることを物語っていた。


<<奥山中学校 卒業生の皆様
                           好暦こうれき4年8月吉日
                             奥山中学校長

 本校卒業生の皆様におかれましては、ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 奥山中学校は、好暦4年度をもちまして、閉校する運びとなりました。>>


「……」
いろはは、冒頭を読み始めてさっそく絶句してしまった。確かに、いろは自身も通っていた時には、それほど多くの学生が集う中学校ではなかった。それにしても、村内唯一の中学校のはずである。奥山村は、中学校を持たない村になってしまうのか。
「そ、っか……」
いろははソファにもたれ掛かった。
受け止めるしかない。


<<来る好暦5年3月9日、第61回奥山中学校卒業式を行う運びとなりました。
 つきましては、卒業式の後に『奥山中学校大卒業式』を催したいと存じます。
 本通知は、ご連絡のつく全ての卒業生に送付しております。>>


 いろはの、また他の卒業生の住所をどこで知ったかなんて、聞くまでもないことだ。
ひとたび村人となった者は、その家族や村役場の職員らの手によって、仕事場や連絡先などは全村民の知る所となる。いろははその常識の中で育ってきたし、コジンジョーホーという概念を知ったのは上京してからだった。

2枚目には、奥山中学校大卒業式に出席または欠席する旨を連絡するための紙が入っていた。7か月も先の式のわりに、連絡期限がなかなかに短い。しかし、半年先のスケジュールまで埋まっているいろはにとって、このくらい前もって連絡をくれるのは正直言ってありがたい。



 いろはが3枚目を取り出すと、それは他の2枚とは全く異なる真っ白でツルツルな紙であった。それだけでなく、タイトルには虹色のワードアートででかでかと「アイドル 風真いろは様 大歓迎」の文字が躍っていた。


<<風真 いろは 様
 奥山村民一同、風真様の昨今のご活躍を拝見しています。
 各種テレビで風真様の姿を見ない日はありません。>>


いろはは少し笑みを浮かべた。「各種テレビ」って。
奥山村では「インターネット」というメディアがあまり浸透していない。映像メディアは全部「映画」か「テレビ」である。
著しくダサいワードアートと文章は、村で暮らしていたころを思い起こさせて、今更ながら伊達や冗談ではなく本当に中学校が閉校してしまうのだという説得力が感じられた。


<<どうかご参加いただき、第61回卒業生の子らと言葉を交わしてあげてください。
卒業生が将来、風真様と同じように世界に羽ばたける存在となるよう、応援してください。>>


一も二も無い。
いろはは、マネジャーに連絡するためにDiscordのダイレクトメッセージを開いた。

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 7か月後。
 いろはは、マネジャーと一緒に卒業式に臨席していた。マネジャーはてっきり、控室のような部屋に通されると思っていたが、なんと一般の参加者と同じ扱いであった。二人とも黒のスーツで目立たない格好をして、何の変哲もないパイプ椅子の席に案内された。
もちろん、人口数百人の村にいろはたちがやってきたら、化粧や派手な格好などしなくても有名人であることは当然わかる。しかし、卒業式の間、村民はいろはを一人の参加者としてしか扱わなかった。

(いろはさん、大丈夫ですか?周りにヘンな人いませんでしたか?けられてたりとかは?)
(大丈夫だよマネちゃん……今のとこ、マネちゃんが一番変な人だよ)

しきりに小声でいろはに注意を促し、周囲をうかがうマネジャーは、その場ではかなり浮いていた。いろはを含む参加者の大半は、その人生の一部の時間を村で過ごしたのに対し、マネジャーは東京生まれの東京育ちだから無理もない。所在なくスマホを見てみても、3Gを示す回線の読み込みは円を描くばかりで、時計程度にしか役に立たない。



 いつもはだだっ広いばかりの体育館も、二百人も人が入ればちょっとしたイベントだ。起立、礼の一つ一つに、無意味にも拍手が沸き起こる。

マネジャーにとって、その卒業式は珍しいことばかりであった。
「いろはさん、なんで、体育館のステージの上にお子さんの椅子があるんです?」
「あれは卒業生が座る椅子だよ。普段は在校生がステージの下にいるんだけど、もう、在校生はいないから……」
「へえ……」

第61回奥山中学校卒業式は、ステージの上だけで完結していた。
校長も、教頭も、担任も、卒業生も、全員がステージの上にいて、ある意味臨席者の見世物のようになっていた。しかし、たった2名の卒業生はステージ下には目もくれず、堂々と国歌と校歌を歌い、厳かに卒業証書を受け取る。
一人は「あさ」、髪の長い女の子。もう一人の髪を短くした女の子が「ゆめ」といった。いろはは彼女らが双子であろうことはわかったが、苗字までを聞き取ることができなかった。卒業式は全体として「あさちゃん、ゆめちゃん」で進められており、ついぞ苗字を知ることは無かった。
あさとゆめは、村内でただ二人だけの中学生であり、見られることには大変慣れていた。それに二人は、卒業式が終わった後の段取りに早く移行するために、キビキビと動くことに集中していたのだ。


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 まるで合唱コンクールのように「仰げば尊し」と校歌を歌いあげた卒業式が終わると、いろはとマネジャーは準備のため女子更衣室に移動した。体育館では引き続き大卒業式が行われるが、他方3年生教室ではあさ・ゆめ両名といろは、それとマネジャーの4人で語り合う「お楽しみ会」が非公式に開かれるのだ。
村側が気を使ったのか、それとも単純に機材を用意できなかったのか、「お楽しみ会」の内容は全て完全にオフレコという取り決め。いろはのギャラは、校長と双子の両親が出すらしい。その額は一般的なオファーの百分の一に満たなかったが、いろはは快く受けた。むしろ、ギャラを拒否しようとしたくらいだった。

「楽しみですね、子供たちとのお話」
「き、きんちょーするでござるよぉ、マネちゃん……」
ファンとの交流は、普段画面を通して行っている。それが今日は握手を含み、存分に語り合うことができる。
「大丈夫ですよ、いろはさん。二人とも、いろはさんのこと大好きだって、言ってたじゃないですか」
「だからだよぉ……」


 いろはたちが身支度を整え、教室の戸を開けると、生徒は既に座って待っていた。いろはのまぶしく光る白い隊士服に、あさとゆめは同時に立ち上がった。
「こ、こんにちは!……目おっきい……」
「こん…にちは……かわいい……」
「こ、『こんにちは、でござる!ホロライブ6期生、holoXの用心棒、侍の、風真いろはでござる~!』ゆめちゃん、あさちゃん、こんにちは!」
あさとゆめの目が、更に大きく見開かれた。
「ほん、本当に、本物の風真いろはさんですか!?」
「本物の、"テレビ"で見るいろはちゃん!?」
「本物ですよ。私が保証します」
都会的なマネジャーは、バッチリ衣装を着こんだいろはその人よりも現実味を持たせる効果があったようだ。あさとゆめは手を取り合ってわぁっと声を上げた。
「むぅ、かざまが自己紹介しても信用しなかったのに…なんでぇ?」
「あっ、生『なんでぇ』!」
「『なんでぇ』助かる!!」
いつものコメントに、いろはの緊張も和らいだ。


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 いろはは、ファンとのふれあいイベントで1分程度のお喋りをしたことはあったが、今日は30分という長時間である。カッチリとした台本は無く、ごく普通な雑談。
あさとゆめの方は、いろはが来ると知った日から、何を話そうか、どんなことを聞こうかとメモを用意してきた。何を聞いても親切に答えてくれるいろはは、少女たちにとって憧れのお姉さんである。質問攻めと溢れるパッションに触れ、マネジャーはトークデッキを書いた手帳をカバンに仕舞った。

 それらの話が、一段落した所であった。

「いろはちゃん、私たちも…」
あさが、ゆめの方をちらっと見やった。
ゆめがコクリとうなずき、口を開いた。
「私たちも、東京に行けば、いろはちゃんみたいになれるかなあ?」
「か、かざまみたいに?」
いろはは、目を輝かせた二人に見つめられたが、その意図が理解できず聞き返した。
「いろはちゃんって、みんなに人気のアイドルでしょう!?」
「私たちも、アイドルになりたいの!」
「あ、えっと……」
この席の話の中で、既に話している。『上京しても、すぐに有名になったわけではない。holoXの面々と会って、更にホロライブに加入するまで、「アイドル」なんて考えてもみなかった。』
「きっと、なれ……うぅん、わかんないよ」
「えぇ~!でも、いろはちゃんは、今スッゴイかわいいよ!?」
「私たちも、いろはちゃんみたいに"テレビ"に出て人気者になりたい!!」

いろはは、考える。
確かに、自分は上京して、結果的に有名人と評される存在になった。
では、彼女らも”世界に羽ばたける人”になるために、東京に出ていくべきなのだろうか?
”その結果”が、今日執り行われている”大卒業式”なのではないか?

 「あささん、ゆめさん」
さっきまで、三人を交互に見ているだけだったマネジャーが、久しぶりに口を開いた。
「『特別な人』になりたいですか?」
「「はい!!」」
マネジャーは小さくうなずいた。
「あささん、想像してください。今、目の前に1万個のリンゴがあります。どれもとてもおいしそうです。『この中から、1つあげます』と言われたら、どうしますか?」
「えっ……と?」
「一番きれいなのを取ります」
あさが逡巡している間に、代わりにゆめが答えた。
「そうですね。ゆめさん。でも、どれがいいか、と1万個も確認はできません。せいぜい、直接見て選ぶのは50個です。あなたは50個の中で最も美しい1個のリンゴを手に入れました。ところで、残りの9999個のことは、気にも留めませんよね。しかも、そのうち9950個までは、目の端にすら入れていません」
あさも一緒に、うなずいた。
「いろはさんは、その、選ばれたリンゴなんです。他の残りは、『何者でもありません』。これ、わかりますか?」

さっきまできゃあきゃあ言っていた二人は、ぎゅっと押し黙った。
「東京で『特別』になるためには、『特別じゃない人』になる覚悟がないと、できません」
二人は、いろはを見つめた。いろはは、咄嗟に自身の存在を隠したくなって、目線を逸らした。いろはが有名なアイドルになったから、二人はその後を追おうとしている。それが夢のある事なのか残酷な事なのか、いろはには判断できなかった。

「でも、知っていますか?二人とも」
二人は、不安そうにマネジャーを見つめた。
「あなた方はもう、『特別』なんです。さっきのステージ、まるでアイドルでした」
「アイドル……?」
「私たちが?」
「こんな村で?」
あさもゆめも、ピンときていない。
「私は、マネジャーとして、『特別』を作る仕事をしています。その私から見ても、今のあささんとゆめさんは、歌ったり踊ったりしなくても、十分『特別』ですよ。さっきの卒業式で、はっきりとわかります」
マネジャーは、少し失望したような目をして続けた。
「でも、逆に東京に出てきたら、なんの珍しさも無い『都会に憧れて出てきた田舎娘』です。アイドル事務所か声優事務所の良いカモですね」
あさが、何か言おうとして身を乗り出す。しかし、ゆめがシュンとなっているのを見て、矛を収めた。
「すみません、意地悪な言い方でしたよね。でも、本当にそうです。『あなたたちをアイドルにしてあげる。プロデュース料を、年間300万円払え』くらい、いくらでも聞く話です。あなたたちの目指す『特別』は、お金で買うものですか?」

 いろはは、マネジャーを見た。
嫌な役を一手に引き受けるのは、常日頃、マネジャーの役目である。
マネジャーは、いろはに小さくウィンクし、いろははそれに応えてうなずいた。
「ゆめちゃん、あさちゃん。『特別』って、どんな人になりたいでござるか?」
マネジャーにやられ、ゆめが発言するのに少し時間がかかっていた。
そんなときに、いち早く復活するのはあさである。
「みんなを、私を見たみんなを、笑顔にすることです!」
「……私も!あさと同じ」
あさとゆめは、見開いた目で宣言した。
「あささん、ゆめさん。あなた方は、”村に2つしかないリンゴ”です。選ばれる、選ばれないの次元ではありません……つまり二人は、この村にとって、大事な、大事な、かけがえのない存在です。替えが効かないあなた方は、将来にわたって一生、村の人に大事にされるでしょう。
もしも、何かやりたいことがあるのならば、東京や、都会に出るのもいいと思います。でも、あなた方双子でしかできないことが、ここにはある。それを忘れない方がいいと思いますよ」
「わかりました」
「ありがとうございました。マネジャーさん」
二人は、マネジャーに礼をした。

 「いろはちゃん」
あさが、少し遠慮気味に問いかけた。
「東京……って、楽しいものがいっぱいあるんでしょう?」
いろはは、一度「うん」と言ったが、その後ゆっくりと首を横に振った。
「色々あるけど、すぐに変わっちゃうんだ。タピオカミルクティーがガレットになって、食パン屋になって。周りがくるくる変わりすぎて、迷子になってしまうでござるよ」
「東京は、そうなんだ……でも、この中学校は、なくなっちゃって、次は無い。東京に行けば、楽しいものは、何でもある。"テレビ"が言ってるもん」
いろはは、ゆめとあさの肩を片方ずつ掴んで、目線を合わせた。

「約束するでござる。
holoXが、日本全国、いや、世界中どこにいても、東京にも負けないくらい楽しくするって。
お父さん・お母さんにこれだけは頼んで。『スマートフォンを買って』って」
ニコと微笑んだいろはは、
「スマホさえあれば、どこででもテーマパークにしてみせる!」
そう言って、雄々しい笑みを浮かべた。
世界征服に燃える輝きがあった。



 教室の扉がガラッと開いて、いろはたちを案内してくれた教師が顔をのぞかせた。
「あのぉ、お時間ですけど……?あっ、もしよろしければ、まだお話ししていてくださっても……」
その言葉に時計を見ると、いつの間にやら、1時間以上経っているようだ。
「かざまたちは、まだ大丈夫でござるが……ね?」
「ええ、そうですね」

「大卒業式、まだやってますか?!」
「えっ?ええ、昔話をしたり、歌を歌ったりしてますよ」
いろはたちの向かい側の椅子は、揃って引かれて音を立てた。
「ありがとうございました。いろはちゃん、マネジャーさん」
「私たち、今日しか会えない人たちがいるから、行かなきゃ」
いろはが顔を上げると、先ほどよりも少し歳を取った少女たちの顔がまぶしく見えた。
「そっか。いってらっしゃい」
「ありがとうございました!」
「またね!」
あさとゆめは、1秒でも惜しいと言うように廊下へ飛び出て、風のように去っていく。
いろはとマネジャーも、丁寧にその場を辞去し、大卒業式には寄らずに帰途に就いた。


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「いろはさん」
帰りのバスで、マネジャーはつぶやくように言った。
「私、あの子たちの夢、摘み取っちゃったんでしょうか?」
子供の前に立ちふさがる大人は、大人本人が思っているよりもずっとずっと影響が大きい。マネジャーがさっきからずっと不安そうにしているのを、いろはは見ていた。
「マネちゃんは、間違ったことは言ってないよ。かざまが言っても説得力無いことを、ちゃんと言ってくれたでござる」
成功者は、「成功した例」として見られる。全員がその成功を得られるわけでもないのに、成功者の輝きは、人の目をくらませる。

「二人が、大卒業式に行って村の人に顔を見せてくれて、ほっとしています」
「かざまも」
双子は、村外の高校に通うことになるという。日常の不便と交通費を避けるために、両親と一緒に引っ越しをするのだという。
アカウントが用意できたら、お話ししようねと約束した。



いろはは実家には寄らずに東京に戻った。
夕方にホロメンと買い物をするために渋谷に出かけるし、その後お泊りオフコラボを予定しているし、明日はスタジオで3D収録があるからである。


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第0回ホロクリエイターテーマ企画 @HOLOcreater0219 参加作品として、投稿しました。pixiv投稿版よりもエグ味を強くしました。
双子、いろは、マネジャー、そして村人、それぞれの立場で異なる思いがあるのを感じ取っていただければ幸いです。

「ストロー」という題は、「ストロー現象」から採りました。"東京"に出て、多くの人に注目される存在になった少女は、田舎出身であるにもかかわらずアイドルとして成功することで"東京"の魔法に染まってしまい、自身ではその"魔力"を全く制御できていない……そんな様子を描きました。これは"東京"で制作されるテレビ番組や、多くのものを象徴しています。
田舎の人々がVTuberの活躍を「テレビ」と表現しているのは、そもそも田舎の回線ではYou Tubeをまともに見られず、テレビでしか見ていないからです。いろははそこに思い至らずズレたお願いをしていますが、大人であるマネジャーは東京育ちですが普遍的な価値を見出してまだマシな言葉をかけています。
キャプションは諦めの境地の村人の気持ちです。双子は、もはや村内に帰ってくることは無いと諦め、それでも村に縛り付けるのではなく夢を持って未来を生きてほしいという親心です。

固有名詞は「いろは歌」から採っています。
架空元号「好暦」は、和暦でこれまでに使用されたことが無く、元号っぽく、M,T,S,H,Rのいずれでも始まらないものを考えました。出典は考えてません。一応「光文」を避けています。

2024年4月21日日曜日

二次創作小説「その耳に惹かれて」

その耳に惹かれて
この作品は、2022年10月29日 12:14に投稿された作品です。

~ケモ耳、ケモ耳、見渡す限りのケモ耳天国。
ホロライブは、なんて素晴らしい楽園でござるか!~


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Koyori's Turn

 「ぐっ……」
フブキ先輩が数枚のカードを扇形に広げて歯噛みする。
そんなににらんでも、置けるカードが増えるわけではないんですよねぇ。

 今日の分の収録が思いのほか早く終わって、中途半端に時間が余ってしまったボクらは、スタジオの楽屋でトランプ大会を開いている。事務所からのお迎えはまだ来ない。
今日・明日と同じスケジュールなので、この機会に先輩たちとオフでたくさん遊べる絶好の機会だ。


 「フブキ、置けるの?置けないの?」
「……」
ミオ先輩に促されても、フブキ先輩はまだうなっている。それもそうだ、ここで負けたら総合最下位が決定、罰ゲームが確定しちゃうから。
「フブキ先ぱぁい、もう諦めましょうよぉ」
「むむむ……パス、です……」
追い討ちで急かして、さすがのフブキ先輩もようやく降参。この七並べのルールは、パス5回まで。6回目のパスを宣言したフブキ先輩は、これで自動的に4位となってしまった。

 「負けた……完膚なきまでに……」
フブキ先輩は手持ちのAやQ、Kを手元に広げ、がっくりとうなだれた。
「あら~、フブキ、今日はツイてないねえ」
「負けが込んでますね、フブキ先輩」
ミオ先輩が自分の手札を横に置いて、フブキ先輩の手札だった数枚のカードを盤面に丁寧に配置していく。とは言っても、端のカードばかりなので、他の人が置けるカードが増えるわけではない。ミオ先輩が体を起こすと、13×4のカードの列が見やすくなった。

 「いろはちゃん、置けるぅ?」
敗北の幕が一段落して、次の順番はいろはちゃん。4人の中で一番パス回数が少なく、手札の残りは1枚。
「フッフッフ……じゃあ遠慮なく、出させてもらうでござるよっ!」
いろはちゃんが、手に持っていた最後の1枚、ハートの6を静かに貼り付けるように置く。
「あっ!?」
ハートの下の方が全然出せなかったのは、いろはちゃんが止めてたのか!
「ぃやったああああ!!!上がりでござるぅぅ!!!」
「いろはちゃん強ぉ!?」
「大貧民もスピードも1位だったよね!すごいすごい!!」
ミオ先輩は目を細めて体を横に揺らす。こよも思わず拍手しちゃった。ゲームはあまり自信が無いと言っていたいろはちゃんも、今日はトランプなので大活躍!
こよもミオ先輩も総合成績はほぼ順位が確定しているから、七並べの手札は置いておいて拍手。フブキ先輩は更に両手をグーにしてテーブルに臥せった。
「強すぎるよおおお風真殿おおおおおおお」
「よっ、いろはちゃん、三冠王!」
「あっぱれ!わぉーん!!」
「ありがと~~でござる~~~!」
やいの、やいの。
いろはちゃん、虫も殺さぬような顔をしながら、戦略に長けた女。holoXの頭脳の座を奪われかねない……!


 ミオ先輩とこよが消化試合を片付け、お楽しみタイム!
「成績発表~~~!!!」
本来はフブキ先輩のセリフだったけど、フブキ先輩との阿吽の呼吸でこよが音頭を取る。
「おっ、このコヨーテ、ネタがわかってるねえ」
「むふふ、当然ですよキツネ先輩」
一度やってみたかったんだよねえ、これ。
いろはちゃんがちょっとビクッと肩をすくめてこよを見る。あっ、通じなかった……?
「あんま気にしないでね。こよもフブキも、『一生のうちに言ってみたいセリフ』がいっぱいあるんよ」
「はあ……、フブキ先輩とこよちゃんは色んな事知ってるでござるなあ…」
ミオ先輩が眉を寄せながら小声で声をかけてくれてる。よかったぁ、フォローお任せします!
物事は勢いが大事。流れを切らないように、声を張る。
「では、優勝者から発表します!優勝はぁ、風真いろは!!あっぱれー!!ドンドンドン、ぱふぅぱふぅぱふぅ!!」
「わー、ぱちぱちぱちぱちぃ」
「よくやったー!」
三人の拍手と称賛に、ちょっと戸惑いながらもはにかんだ笑顔のいろはちゃん。あああ、可愛いいいいい。
「いろはさん、喜びの一言をどうぞ!」
こよはマイクをいろはちゃんに向ける。
「え、えっ、な、なに言えばいいでござるか?」
「何でもいいんだよぉ。言わないと締まらないの!」
いろはちゃんは、いつもはあまり前に出るタイプじゃないけど、強めに押したら協力してくれる優しい所が可愛いんだよねぇ。
「えっ……と、嬉しいでござる!!」
わぁっ、と一層の拍手で讃える。

「では!続いて最下位の発表です!!みなさんお気づきのとおり、フブキ先輩です!!!」
「わー、ぱちぱちぱちぱちぃ」
「やっちまったー!」
ミオ先輩とフブキ先輩が、ワザとさっきと同じようにぱちぱちぱちと拍手しながらリアクション。
「えっ?えっ?」
いろはちゃん、再び困惑。
「ハイ、では敗軍の将、お願いします」
マイクをフブキ先輩へ。
フブキ先輩はわざとらしく神妙な顔をして。
「う~ん、もう少しプレイングに幅を持たせられたらよかったんですがねえ~。来期の活躍を期待したいものです」
「解説かよっ!」
「アハハハハハハハ」
「ふふっ、ハッハッハッ」
きれいなツッコミも決まった。
息ピッタリで気持ち良い。フブミオにこよいろ、大先輩を相手にうまくお話しできるか不安だった時が嘘みたいだ。


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Iroha's Turn

 嵐のような盛り上げ方だったでござる。
こんなに楽しい集まりにできるなんて思ってなかった。フブミオ先輩方もこよちゃんも、本当にすごいでござるなあ。
「ハハハハ…はぁ~笑いすぎて疲れちゃった」
「そうですねぇ~」
「いやあ、面白かった!じゃあ終わりだね!お疲れ!!」
「いやフブキちょっと待て」
そろり、そろりと逃げ出そうとするフブキ先輩を、ミオ先輩が呼び止める。
「え?ま、まだ何かあったっけぇ……?」
「とぼけるな白上フブキ!今回は罰ゲームがあるだろうがあ!」
「ぁ……ぃゃぁ、ヨクオボエテナイナァ……」
振り返る姿勢のまま、変な上擦り方の声で罰ゲームを怖がるフブキ先輩。耳がぴょこぴょこしてて可愛い上に面白い。アイドルとしてこれ以上ない。
「こよ!罰ゲーム内容は何だっけ?」
「はい!罰ゲームは、『優勝者のお願いを何でも一つ聞く』です!!」
フブキ先輩は目を「><」の字にして「ァアーーーー」と声にならない小さな悲鳴を上げる。
可愛い。フブキ先輩。

「優勝のいろはちゃん!」
「はっ、はい!でござる!」
「フブキ先輩に何でも一つ、お願いしていいよ!!」
こよちゃんが手の平で指す先には、両手で頭を抱えて審判の時を待つ白い狐がいた。
元気はつらつのフブキ先輩が弱弱しい姿をしてるのも可愛い。
そのフブキ先輩に、何でもお願いできる??想像してこなかったでござる……。
「いろは、何でも言っちゃっていいんだよ」
「そうそう、まあ、いろはちゃんのことだから、そんなに過激なことは言わないだろうけど」
「オテヤワラカニ……オネガイスルデゴジャルゥ……」
フブキ先輩の人間の方の耳が、真っ赤になっていく。何か恥ずかしいことをされると思ってるでござるか?
改めてフブキ先輩の全身を見ると、全体としては可憐な白髪の女の子だけど、やっぱりケモ耳と尻尾が目立つ。防御体制のフブキ先輩の尻尾は体にぴったりとつき、耳はぴぃんと緊張してる。
よく見ると、耳の先がちょっと赤らんでる。
あそこは、どんな肌触りなんだろう。
ふにふにしてるのかな。
毛でちくちくしてるのかな。

 触りたい。

「ケモ耳を、モフらせてほしいでござる!」

「おぉ~」
「なるほどー」
「み、耳ぃ!?」
ミオこよは完全に他人事だけど、フブキ先輩は大きな声で反応した。こめかみあたりを押さえていた手が、頭上の狐耳の方を隠すように掴む。
「いやあ、実は風真、ミオ先輩もフブキ先輩も、お耳可愛いなあ~っていつも思ってたでござるよ」
「いろは、ケモ耳好きって言ってたもんね」
「そんな!ボクの耳いつも…いや時々…たまぁに触らしてあげてるでしょ?!」
「それはそれ、これはこれでござるよ」
こよちゃんの耳を、数度触らせてもらったことはある。あれはとても良いものでござった……。
しかしケモナー侍としては、世の全てのケモ耳に顔をうずめてみたいと考えるのは自然なことでござる。
「ケモ耳だったら誰でもいいの?!」
「ケモ耳に貴賎なし。全てのケモ耳は平等に尊いでござる」
なぜか抗議してくるこよちゃんに真顔で説明。
十人十色、ケモ耳も三者三様でござる。
「えぇっと……じゃあいろはは、フブキの耳をモフモフしたいってことね?」
「はい!モフりたいです!!」
右腕を真っすぐ挙げて応える。なんだか、元気の良い小学生になったみたい。ケモ耳モフれるなら小学生にも幼稚園児にでも何にでもなるでござるが。我々ケモ耳同好の士は、スポーツマンシップにのっとり、正々堂々とケモ耳をモフることを誓います。
……こよちゃん、そんなに立派なケモ耳を持ってるのに、唖然とされても困るでござるよ。

「フブキ、良い?」
「……あの、耳は……敏感で…」
耳を抱えて半分涙目になっているフブキ先輩に、穏やかに訊ねるミオ先輩。
優しいのに、シャキシャキと話を進めてて、かっこいい。あと耳もかっこいい。
「……でも、ダイジョブ、です……」
「大丈夫?無理してない?」
「…!!」
両手で耳を折りたたんだまま、フブキ先輩は目をつぶってコクコクと頷いてる。
かっ、可愛いいいいい!!
「何あの可愛い生物……」
「でござるなぁ……」
「いじめたい気持ちはちょっとわかるかも」
「別にいじめたいわけではないでござるよ?」


 フブキ先輩がうつむきながら、近づいてきて椅子に座る。
「か、風真殿、どうぞ……」
「それでは、失礼するでござる」
こよちゃんの耳をモフモフさせてもらった時は、お辞儀をする格好のこよちゃんの頭上にかざまが手を伸ばして、ちょっと触るだけだった。
それがこんなにも、堂々とケモ吸いができる!!ケモ耳好きにとって、これほどの幸運はないでござる。
ささやくように、つぶやくように「いただきまぁ~す」と言いながら、フブキ先輩の頭を抱きかかえる。ケモ耳の間のつむじの部分に鼻を近づけると、ちくちくした毛が顔に刺さって、ちょっと痛い。それはしょうがないものとして、スゥゥゥーっと大きく息を吸った。人間とも完全な獣とも違う、複雑な香り。鼻と胸が熱を持ち、かざまの口からため息が漏れた。
フブキ先輩の「あっ…」という可愛い吐息が、かざまの胸に当たる。外野からも「おお、大胆……!」「んっ……」と少し声が聞こえる。でも今は、そんなことより目の前のケモ耳に全集中でござる。
頭の向こう側に回していた手を片方外し、右耳を触ってみる。つまむと、ふにふに、コリコリと中身の軟骨が手に当たる。耳の外側も内側も、硬い毛がびっしり覆っていて、なんだか想像と違う。皮膚が薄い部分のすべすべした感じがあると期待していたけど、色が黒いだけで同じような毛が生えている。
耳の更に奥には、更に多くの毛が生えていて、鼻を近づけるとさっきよりも強くチクチクして、ためらってしまった。

 そうだ、かざまはこよちゃんの耳を想像してたんだ。耳の内側に柔らかな肌がのぞいていて、白くふわふわな綿毛のような毛が密集しているこよちゃんの耳。それをかざまは、いつも吸ってみたかった。でも、フブキ先輩のケモ耳はそういう感じじゃないみたいだ。さっき自分で言ったじゃないか。ケモ耳は十人十色、みんな違ってみんな良いんだって。
右耳を中途半端にさすりつつ、左耳を包むように触ると、また違和感があった。指に当たった金属は、フブキ先輩のチャームポイントのピアス。手全体でケモ耳を感じようとしていたのに、そのピアスに「私は『かざまの』ではないよ」と言われているみたい。
そっかあ。これはかざまのではないのか……。
自分で希望して吸い始めたのに、ヘンなの。

気を取り直して。
耳よりも尻尾の方が、気持ち良い手触りかもしれない。お耳を触っていいなら、尻尾くらい減るもんじゃないでござる、よね?
身を乗り出して、フブキ先輩の背中に張り付いた尻尾に手を伸ばす。


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Mio's Turn

 「か、風真殿、どうぞ……」
「それでは、失礼するでござる」
いろはがフブキの頭をそっと抱きしめる。フブキからすると、いろはの胸が押し付けられてるんだよね。それは、なんだか、特殊な秘密の逢引の現場みたいに見えて、「おお、大胆……!」だなんて声が出ちゃった。
しかし、勝者の権利だ。存分にやりたまえ、いろは。

 改めてだけど、いろはのケモ耳好きはホンモノだったみたい。頭を吸ってみたり、夢中で耳をいじったりして、気持ちよさそうだ。「ねこ吸い」とか「うさ吸い」とか言うし、みんな獣の体臭を嗅ぐのが好きなのかな。かく言ううちもネコはたまに吸う。その後すごぉく機嫌が悪くなるから、本当にたまにね。
「んっ……」
こよりの声。
いろはに見入っていて、こよりの様子がおかしいのに気が付かなかった。
こよりはちらちらと二人を見たり、手元を見たり。両手を組んで何かに耐えているみたい。その握った手は、フブキから漏れる「あっ」とか「ひゃっ」とかいう声があるたびに、強く力が入る。
歯医者にかかったときに、歯が痛むと手に力が入るみたいに。
でも今、こよりが痛んでるのは……心、か……。


 どうすればいいか少し悩んでいると、あれっ?いろはがフブキに覆いかぶさるようにして、背中に手を回そうとしてる?!
「ストーーーーーーップ!!」
たまらず大きな声を出して、いろはの腰を掴む。
「罰ゲームは耳だけの約束でしょ!」
「あっ、バレたでござるかぁ。でへへ」
このタヌキ、ちょっと目を離したスキに何を企むかわかったもんじゃねえな。
引き剥がして、めっ、とやる。
「ふぁぁあ」
一方、いろはの胸から解放されたフブキは、ぽわんとした顔をしていた。頬が赤く、口をぽかんと開け、目線は遠く上方を見て焦点が合っていない。いろはの胸を顔全体で感じていたら、こんなにも魂が抜かれてしまうのか。いろはは美人で清楚で声も可愛くて良い匂いがしそうで……

……ホントにどいつもこいつも……!!
なんだかふつふつと、怒りというか、焦りというか、変なモヤモヤがうちの中に生まれてきてしまった。
衝動的に、フブキのだらしない顔を両手で覆う。これは他人に見せていい顔じゃない。
「フブキ!」
「はっ、ひゃはい!」
「ちょっと、こっち来なさい!いろはは、こよりとお話しして!!」
同期の仲なら、細かい指示をしなくても何とかなるでしょ!
まだ切ない目をしていろはを見つめるこよりに、いろははどんな言葉をかけるんだろう。いろは、鈍感そうだから、ちょっと心配だけど。
「トランプはこれで解散!こより、いろは、また後でね!」
「は、はい……」
「はい、でござる」
フブキのケモ耳を強めにつまんで、強引に立たせて隣の楽屋に連れていく。
「ま、待って、待ってよミオぉ」
「これが待てるかってんだ!」
ああ、心臓がバクバクいっている。フブキがあんな顔するからいけないんだぞ。
一刻も早く、フブキの目を開かせなきゃいけないんだ。

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Fubuki's Turn

 小鳥の鳴き声が響く翌朝。
普段ならまだ眠い時間だけど、昨日と同じ時間でお仕事だから少しはマシだ。
「おはようございま~す」
ミオと一緒に事務所のドアを入る。昨日と同じメンバー、こよりちゃんと風真殿が揃っていた。
「フブキ先輩、ミオ先輩!おはようございます~でござるぅ」
「おはよーこより、いろは」
「こんこよでーす!……ミオ先輩、なんだか今日は……」
こよりちゃんがミオと私の顔を見比べて、いたずらを思いついたようなニヤーッとした目つきになる。
「……ゆうべはお楽しみでしたね?」
「うっぐ!」
即バレ!!?
「あははぁ、まあねぇ」
ミオまで!少しは隠して!!
と言っても、私の服が昨日と同じなので言い訳のしようがない。恥ずかしいやらツッコミたいやら、顔から火が出そうだ。
ミオはつやつやした満点の笑顔でこよりちゃんと見つめ合っている。昨日は久しぶりに、ミオが耳やら尻尾やらいじってきて、大変だったんだからね?私は私で、ミオのふわふわの胸を堪能して天国を味わいましたので文句はありませんけども。
相棒の横顔を見ながら、昨日の私に襲い掛かる狼を思い出す。
ミオに火が付くと、誰にも止められない。昨日は別室に移動するや否や、無言で唇を貪られた。楽屋とはいえまだ仕事場にいることなんてお構いなしに、ミオの熱を直に注ぎ込まれた。風真殿の胸の感触なんて、吹き飛んじゃった。
事務所に移動する間も惜しんで直帰して、ミオの家に泊まって、……
思い出すだけで頬が熱くなる。

 「そ、そういえば!風真殿は昨日あの後どうしたの?そのまま帰り?」
「あぁ~、そのことでござるが……」
今気づいた。こよりちゃんの笑顔も、めっちゃつやつやしてる。ミオと同じだ。
「こよちゃんが急に、かざまに『ボクの耳もモフモフして!』って言ってきたでござる。かざまはもちろん、モフれて嬉しかったでござるが」
風真殿は、てかてか笑顔のこよりちゃんを少し見て。
「お耳触らせてくれても、いつもはホンの一瞬だけなのに、昨日は永遠に触らせてくれたでござる。『好きなだけ触っていいよ』って……。なんでぇ?」
「いろはちゃん」
良い笑顔のこよりちゃんは、風真殿の顔に近づいて言う。
「次にケモ耳をモフモフしたくなったら、『いつでも』、こよに言ってね。『いつでも』、だからね」
「えっ、は、はい」
とびきりの圧をかけられた風真殿は、それでも真意がよくわからず、きょとんとした可愛い表情を浮かべるだけだった。


 「ミオ先輩」
「ん?なに、こより?」
「昨日は本当にありがとうございました」
こよりちゃんは深々とミオに礼をする。風真殿とたくさん仲良くできたんだろうなあ。今後風真殿には手を出さないようにしよう。後がこわい。ミオも、こよりちゃんも。
「おかげで、素直になれました。色々と」
「アハハ…いやぁ、お役に立てたなら何よりだよぉ」
ミオが気恥かしそうに照れて笑う。
普段は皆を包み込むママ、ツッコミやゲラで皆の良さを引き出すバイプレイヤー、しかしてその本性は……

頭上には、ホロライブで一番大きく、存在感のある耳がある。
昨晩は余裕が無くて、ミオの勢いが激しすぎて、手にできなかった黒い花弁。
その耳に惹かれて、思わず手を伸ばしかけた。


 ガチャっと、扉の開く音。
「白上さん、大神さん、博衣さん、風真さん、揃ってますかー?」
「あっ、スタッフさん?」
「揃ってますー」
技術スタッフの人が待ち合い室に入ってきた。
「午前中からすみませーん、では、こちらも移動の準備ができましたので、車の方行ってもらっていいですか?」
「わかりましたぁ」

 手を引っ込めて、その手で荷物を持ち上げる。
私がミオの耳を触ったら、ミオも気持ち良くなるのかな。

でもそれは、今じゃない。
DiscordのDMに『今夜も泊まっていい?』と下書きだけ書いて、送ろうかどうしようか、1日中たっぷり悩んでいよう。

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ホロクリエイター @HOLOcreater0219 の企画第6弾参加作品として、投稿しました。
「朝チュン」テーマ、でもR-18は禁止と言うことで、ボディタッチ程度の作品を考えました。いろはがケモ吸い好きなのでこよいろ、二人だけだと濃密な雰囲気になりづらいのでフブミオも追加しました。かなココも良いけど、フブミオも良いですね。

いつもは『目を「><」の字にして』のような、文章表現以外の書き方はしないのですが、フブキのホロライブでのコメディ的な場面での表情を表現するために、わざとこのようにしました。

2023年7月20日木曜日

二次創作小説「封筒と2枚の便箋」

 封筒と2枚の便箋
この作品は、2022年4月30日 12:03に投稿された作品です。
~「だいじなもの」と書かれたフブキの宝箱には、1通の手紙が収められている。
封筒の中には、便箋が2枚入っている。
鍵のかかったフブキの心の中の宝箱には、1通の手紙が大切にしまわれている。
封筒の中には、便箋が3枚入っている。~
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〒173-0003
バーチャル東京都カバー区ホロライブ町1-6-1
白上フブキ様
大神ミオより
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「   フブキへ。

 突然のお手紙、びっくりさせちゃったよね。うちとフブキの仲で、手紙なんて初めてだもんね。
 Discordも、DMも、通話も繋げられなくてごめん。直接言うとまとまらなくなっちゃいそうだから、手紙を書くことにしたんだ。読んでくれると嬉しいな。

 うち、フブキとまつりが一緒になるって聞いて、とっても嬉しいよ。大好きなフブキと、素敵な仲間のまつりが、二人とも一気に幸せになるんだもん。うちも嬉しいに決まってる。
 でも、昨日は本当に突然だったから、少しびっくりして、座りこんで泣いちゃったり、部屋を飛び出したりなんかして、驚かせてしまってごめんなさい。なんでもないの。
 お祝いしてるし、応援するよ。嘘じゃない。


 うちは、フブキに出会ってから、人生(狼生、かな?)が変わったよ。山奥から出ることになって、たくさんの人との縁ができた。
 ホロライブの仲間と出会って、一緒に配信したり、歌を歌ったり、ダンスの練習したりして、とっても楽しかった。今も、毎日楽しいよ。
 それは、フブキがうちを山から連れ出してくれたおかげだよ。フブキは可愛くて、優しくて、うちを色々な人に紹介してくれたよね。
 今のうちの人間関係とお仕事と生活は、全部フブキと出会ってからのものだよ。だから、今のうちにとって」

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「フブキが全てなんだなあって、今、考えてる。フブキが喜んでくれるなら、フブキが求めるなら、うちは何だってできる。

フブキなしでは、今のうちはない。
フブキ、愛してる。

 うちの全ては、フブキでできている。なのになんでうちはフブキの全てじゃないの?
 うちは、フブキがいないと何もできないんだよ。フブキがうちのこと、声とか歌とか好きって言ってくれたから、自信が持てたし、配信だってできてた。フブキが言ってくれたことが今のうちの全部なんだよ。
フブキはこれから、うちにかけてくれる言葉は無くなってしまうの?フブキがうちだけを応援してくれないと、うちはがんばれないよ。うちはフブキがいないとダメなんだよ。
フブキはこれから毎日、うちじゃなくてまつりにお話しするの?まつりとだけお話しして、まつりだけ応援して、まつりだけを元気づける言葉をまつりに言って、うちには言ってくれないの?
 うちはフブキの一番じゃなくなるの?まつりがフブキの一番になるの?

違う違うチガウチガウチガウちがうちがう違うまつりは、最初から、うちと会うずっとずっと前から、フブキの一番だったの?まつりがフブキの大事な人なの?うちがフブキの一番だった時は一度も無     かった?
これまでずっと、フブキはまつりのことを見ていたの?うちは可愛くて優しいフブキの何を見ていたの?うちが見ていたフブキはまつりのことが一番好きなフブキなの?ねえ、うちはフブキに何もできないの?うちと、まつ」

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「フブキ、昨日の事、本当におめでとう。
 二人のこと、ずっとずっと応援しているよ。

 この手紙の2枚目は、一生のお願いだから、一回読んだら捨てて。
 うちは、フブキには嘘をつきたくないし、心を隠したくない。うちが思ってることを、フブキに全部伝えなくちゃ、うちが壊れちゃう。

 だから、どうしても読んでほしくて、書いちゃった。迷惑だったよね。ごめんね。わがままでごめん。
 だけど、これっきりにするから、許して。

 今は、これからの事、あんまり考えられないや。

 少ししたら、また連絡するね。


心からの親友へ


ミオより」


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pixivにて「改ページ」という技術を知って、構想を練った作品です。破線は改ページ箇所を示します。
ページごとに、封筒と、便箋1枚目、2枚目、3枚目を表現しました。徐々に気持ちが昂る所を表現できたと思います。また便箋2枚目と3枚目にも何らかの内容があることをも匂わせています。
手書きで便箋を書くことを考え、実際書いてみましたが、僕の男文字でミオちゃんの手紙を表現することは難しく、泣く泣くボツとなりました。

2023年3月27日月曜日

どこかからいらっしゃった方々へ。

 こんにちは、僕は伊久新之助(いく・しんのすけ)と言います。


目的を持ってこられた方もいらっしゃいましょうが、特に何を求めに来たわけでもない方もいらっしゃいましょう。

そこで、見るべきリンクを取り急ぎいくつかここで挙げておきます。



ホロライブ所属「アキ・ローゼンタール」さんのオリジナル曲「Shallys」を考察しています。

https://dounareba.blogspot.com/search/label/Aki_Rosenthal


ホロライブの二次創作小説を書いてます。

https://www.pixiv.net/users/274049/novels


アニメ感想「リコリス・リコイル」

https://dounareba.blogspot.com/2022/09/10.html


祝典序曲「1812年」の曲中に使用されている曲についての覚書です。

https://dounareba.blogspot.com/2019/01/1812.html


各記事がお気に入りましたら、どうぞタグ等で他の記事もご覧になって行ってください。

2023年3月18日土曜日

二次創作小説「確かに、お返ししました。」

 確かに、お返ししました。

この作品は、2022年3月14日 23:00に投稿された作品です。

~天音かなたと桐生ココのコラボ放送です。
桐生ココ卒業?何のことですか??
現実には、まだまだ油断できない状況ですが、例によって無視しています。

皆さまは、良いホワイトデー、迎えられましたか?~

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 「ううう~~~ん………」
金曜の夜、天音かなたは悩んでいた。
PCの傍らには、きらきらしたラメに彩られた菓子の包み紙が丁寧に折りたたまれている。
2月14日に、桐生ココからもらったバレンタインデーのチョコレート菓子。
とても、おいしゅうございました。

 あれから1か月が経ち、本日は3月11日。
ほんの1週間後にライブを控え、ボイトレにダンスレッスン、提出物、サイン書き、配信と企画の準備に追われ、何んにも用意していない。
「ホワイトデーのお返し、どうしよう」
 引っ越しのドタバタで、バレンタインデーのお礼は結局、discordで話すだけになっちゃったし、焼肉も行ってない。
コンビニのホワイトデーコラボのクリアファイルは、運営さんに頼み込んで2枚もらった。今頃ココの部屋にも同じものがある。ココは結構、そういうの喜んで使ってくれるから、書類とかが入ってるかもしれないな。
まあ、それを「ホワイトデーのプレゼント」って言うのは、さすがに無理があるよね。渡したの、3月入るかどうかくらいだったし。

 百貨店に買いに行くしか無いか……でも、外に出る服が無い。服を買いに行くにも、服を買いに行く服が無い。いい加減通販もしたくないし……。


 ところで、USドラゴンアメリカでは、ホワイトデーに何を上げるんだろう?チョコじゃなくて、マシュマロとかクッキーとかをあげるって、聞いたことがある気がしてきた。
これはヒントになるはず!!

 検索、検索、……『USDAには、ホワイトデーは存在しない』。

 考えることが増えた。
ココはホワイトデーを知らないかも。それなのに、急にプレゼントを贈ってしまったら、誤解されちゃうよ!?
 べ、別に、僕がココにプレゼントしたいんじゃなくて!
ホワイトデーのお返しだから!
「しかたなく」だから!!


 はあ、はあ、………はあ。
疲れた。ホロライブでも見よう。
今夜はホロライブの公式放送があったはずだよね。フブミオ対決。フブミオはとっても仲が良くて、「てぇてぇ」カップリングで目の保養にもピッタリ。きっと今夜も素敵な放送になること間違いなし。



 その晩、天音かなたの目に、飛び込んできた光景は、彼女の正気を飛ばすのに十分な量の「てぇてぇ」であった。彼女はディスプレイの前でたっぷり1時間「無理……無理……」とうめくだけの生物となった。

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 来る、3月14日の夜。
ココに提案し、2日でまとめた企画。配信がうまくいったらいいな。
「みんな、おはよう!おはようではないんですけど。週末に公式放送で致死量のてぇてぇを浴びてしまい、とても良い眠りにつきました。天音かなたです。」
---フブミオてぇてぇ!
---かなココも負けず劣らずてぇてぇのだが?
「はい、みんなお静かに!本日は桐生ココさんをゲストにお呼びして、格付けチェックをですね!したいと思います!!」
「おゎおゎおゎ~!!へい民の皆さん、こんドラゴーン!!桐生ココで~す」
直接お返しするのは、無理無理無理。
だけど企画でなら、おいしいものを食べさせても、バレないよね。
「では早速ですね、ココには目隠しをしてもらいます~。今回格付けチェックを行うのは、それぞれが準備したネタとなっております!僕のネタは……チョコレート!」
---ホワイトデーのチョコだ!
---ホワイトデー尊い
---会長!コメント見てええええええええ
「はい、ここにですね、AからGまでの7つのチョコが用意されておりましてですね、それぞれミルクチョコ、ホワイトチョコ、チョコカカオ50%、焦がしミルクチョコ、高級ミルクチョコ、高級ミルクチョコカカオ72%、高級チョコカカオ50%、……となっております」
「さすがにそれわぁ……間違わねぇだろう」
ココの3Dが腕を組む。
「本当にぃ~?高級チョコとか、わからないんじゃないの?ココぉ」
「てめぇ言ったな?全部当ててやるから吠え面かくなよ?!」

「はい、ココ。あーんして」
「あーん」

Happy White Day!!


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バレンタインデー企画に続いて、ホワイトデー企画の作品です。チョコレートを食べさせあうシチュエーションは、フブミオが公式放送で行った「利きチョコ」を丸パクリしたものです。
【#つながるホロライブ】イベント直前!フブミオ対決!!【#フブミオ対決】
現実では、かなたんの休止が続いており、直近に3rd LIVEが迫っていました。「#かなたん大好き」タグによるtweetが毎日TLに投稿され、僕はそれをまとめておりました。当日のトゥゲッターはこちら。
天音かなたのお見舞い(3月14日)にかけつけ、 #かなたん大好き とエールを送るへい民たち
毎日、みんなでかなたんに届くようにtweetをするのはある意味楽しかったです。

2023年3月14日火曜日

二次創作小説「確かに、お届けしました。」

 確かに、お届けしました。


この作品は、2022年2月14日に投稿された作品です。



~天音かなたと桐生ココのお引越しの一幕です。

現実には、とんでもないタイミングで、とんでもないことになっておりますが、あえて無視しています。


皆さまは、良いバレンタインデー、迎えられましたか?~



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2月12日。
忙しい。忙しい。
配信アーカイブの確認して。
スケジュールの確認して。マネちゃんに送信。
サインは……3日後の僕がやってくれる!後回し!!
箱詰めした段ボールの発送準備して。
あっ、これはまだ発送しちゃダメなやつだった!
ノートPCは一つ残しておきたい。配信したくなったときに困るからね。
マ~ジでやることが多すぎて過去イチ忙しい。
------iPhoneの振動。
Discordの通知だ。誰からだろう。
あっ、ココだっ。
『今忙しいか?』
え……?そりゃ忙しいんですけど……
いやいや、ここは文字通りに受け取ってはいけない。僕は察することができる天使。
ココは、僕が今引越し準備中で、サインも毎日深夜まで書いてることを知ってる。
隣の部屋にいるんだから、「忙しい」ことを知らないはずがない!
と、いうことは!
ココは今すごく重要な話があるはず!!
『ううん、全然!何?』
『部屋行ってもいいか?』
『いいよ』
------扉の開く音。
ラフな格好をして、ココが来た。
「いらっしゃい、ココ」
ココ、なんだかもじもじしてる。手ぶらで僕の部屋に来るときは、いつも、ズンズン入ってくるのに。
「あの……サ」
ココは床を見ながら、両手を体の前でいじったり、しっぽを触ったり、角を触ったり、足踏みをしたりしてる。
「ココ?」
「……!!」
ココの両腕が跳ね上がるみたいに上がって、ココはボクシングのファイティングポーズみたく縮こまった。
「くふふっ!名前呼んだだけでビビりすぎ!」
そんなの、つい笑っちゃうじゃん!
「くふふふっ、ふふふ、それで、ココ、用は何?」
ココはさっきの驚いた姿勢からさらに縮こまって……
「なっ!なんでもねぇ!」
------急いでドアを開け、後ろ手に閉めようとしたドアに尻尾が挟まる音。再度、閉めなおす音。
変なココ。
もじもじしてたけど、目が泳いでたし、たぶん、それほど真剣な話じゃないよね。引っ越し落ち着いたら、また聞く!
------インターホンの音。
あっ、荷物を取りに来た業者さんかな?
早く出なきゃ。
はいはいはーい。
ん?テーブルに小さな紙袋……僕のじゃないし、ココのかな?


「配達よろしくお願いします」
「承りました!」
業者さんに荷物も渡せたし、部屋に戻ろう。
テーブルの紙袋、無くなってる。







2月14日
新居に到着~!
新居で最初にすることは決めてるんだ!当然、配信!!だよね!
『新居に引っ越したよ~!今日は19時から!!』
ツイートもOK!
19時……そういえば、ココ、今日の配信の予定、詳しく聞きたがってたなあ。なんでだろう。
------インターホンの音。
はいはーい。また引っ越しの荷物ね。
あれ?引っ越しの荷物は、さっき届いたので全部のはず。これは何だろう?送り主……僕の名前になってる!?
------包みを開ける音。
えっ?
うっわあああああ!!可愛いチョコレートのお菓子!!
手紙もついてる。
読むしかないよね。

『Happy Valentine's Day!!
直接渡したかったけど、忙しそうだったから宅配便にしたったわ!
先に新居、あっためといてくれよな!』

......!
忘れてた。
忘れてた忘れてた!!
色々、色々全部、見落としてた!!
あんなにココは、僕のこと気にしてくれてたのに、僕は忙しい忙しいって!

------discordのコール音。

「ココ!」
「お~!」
「ごめん!僕、ココのこと放っておいて!」
「なんだよぉ、急に」
「だって!チョコ!!」
「届いたかぁ……日和って渡せなくて、ごめんな。ハハ」
そんな、ココ、僕の方が、悪いのに。
「ココ……!」
いや、でも、僕がココに届ける言葉は、謝罪じゃなくて。
「ココ!!ありがとう!!」

Happy Valentine's Day!!


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クリエーターは、締め切りが無くても作品を書ける者と、締め切りが無ければ作品を書けない者がいます。僕は後者です。

バレンタインデー企画時には、同居中のかなココが一緒に同所に引っ越すということが語られていました。しかしその当日、かなたんはコロナ感染を発表。奇しくも借り始めた新居にセルフ隔離生活となってしまいました。

テーブルに置かれた紙袋。伝えきれない愛が、恥じらいという名の包装紙に包まれているのです。

2023年3月12日日曜日

二次創作小説「クリスマスイブの誘拐」

クリスマスイブの誘拐


 この作品は、2021年12月25日 15:44に投稿された作品です。


~いつもは、かなたんはこんなことは絶対にしません。

しかし、誘拐されて、したことだから、しかたないのです。

だから、「誘拐」なのです。~


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 「お先に失礼します」
口々に、社員は職場を後にする。僕もその一人だ。
階段を降り、地下鉄駅までの短い時間は、少しだけ音の出るアプリを起動することができる。
You Tubeアプリを開き、仕事中に通知されたホロメンのチャンネルを巡回する。耐久歌枠、ゲーム配信、スパチャお礼枠。どれも見たい配信だが、スマホのアプリで見ている以上、どれかを選ぶと他の配信を見ることができなくなる。選択って、残酷で、骨の折れる行動だ。
 今年の24日は金曜日で、つまりは仕事をし終えてからホロライブの配信を見るといういつも通りの日を送ることが元々決まっていた。
家に帰っても、特段することは無い。仕事はまだ納まっておらず、土日を挟んでまだ3日間働く必要がある。年末に休みがあるだけ、いくぶんマシだ。今年も「ゆくホロくるホロ」を見て、正月衣装のホロメンを見て、週明け1月3日から社畜の一年が始まる。

 地下鉄駅に入り、階段を降り終わる。定期を改札にTap、2番ホームの定位置に並んだ。
一旦You Tubeアプリを閉じて、Twitterを開く。こちらの通知も、ホロメンのアカウントがツイートすると全部通知される設定になっているので、配信告知やおはようツイート(今、18時だけど……?)であふれていた。
仕事に情熱を燃やす性格ではないし、これといって友人も多くないので、ホロメンのツイートは、ほとんど唯一の関心事だ。
その中で、ある天使のツイートに目が行った。
 「今夜、赤ウパ耐久しようと思ってたけど、時間変更になるかも!ごめんね!」
 かなたんの配信は見たいけど、他にも目を引く配信がたくさんあるので、リアタイの予定はなかった。もしも重要な暴露があったら、切り抜き師さんたちが切り抜いてくれるだろう。
しかし、杞憂民杞憂民のかなたんが、何の説明もなく時間変更……。きっと配信前に何らかのツイートはあるだろうし、それを待つしかないけど、ちょっと気になるな。

 そんな時、新しい通知がポップアップした。かなたんのRT。ツイート主は、全く知らないアイコンで、アカウント名は「dragon_from_USDA」。
 「今夜、天使をさらってやるぜ!!」


               ~クリスマスイブの誘拐~


 一瞬のうちに、何が起こったかを察した。dragon_from_USDAの正体も、天使をさらうという意味も。
TwitterのTLは、一気に沸き上がった。
『配信が無し、了解!』
『熱いねえ!!』
『お幸せに!』
『ついに、かなたんも結婚か……』
僕も、「いいね」を押して、地下鉄の中ではTwitterをチェックして過ごした。

 地下鉄を降り、家路につくと、誰もいない真っ暗な住宅街を歩くことになる。その時間は、少々音が出ても平気なので、潤羽るしあの配信をつけてラジオ代わりに流すことにした。
 「いいじゃん!うまくできたんじゃない?まだまだ作れるよ!」
るーちゃんのお菓子作り配信は佳境だ。パンケーキが一つできあがり、次のもう一枚を焼き始めた。
「んっ?来たかな?……みんな、ちょっと待ってね!待っててくれる?!」
るーちゃんは何も載っていないホットプレートを映したまま、とたたたっとどこかへ走っていった。
たっぷり5分後、再び声が乗った。
「みんなお待たせ~!かなたんたちが来てくれたよ!クリスマスプレゼントだって!!」
コメント欄がざわつく。当然、みんなTLでのかなたんのRTは見ている。
「写真撮ってきたから……これ!ロウソク!!可愛い~~」
るーちゃんの配信に、写真が載せられた。小さなカップのロウソクの上に、天使とドラゴン、そして蝶の絵が置いてある。
るーちゃんは、遠くに呼び掛けるように、マイクから口を離して、「ありがとう!!」と叫んだ。
「かなたんと……お友達が、“キャンドルサービス”って言ってたー。キャンドルサービスって何?」
それで、僕らはみんな、何が起こったのか再び察した。
『結婚式!!』
『かなココ結婚だ』
『るーちゃんキャンドルサービス知らないの?』
『YEAHHHHHHHH』
と爆速で流れていた。
 かなたんが去った後のるーちゃんのコメント欄も、『かなココ結婚』で埋め尽くされていた。
「みんな急にごめんね~。さっき連絡が来て、『遊びに行っていい?』ってきて、『いいよ』って言ってたんだけど、まさかこんなすごいプレゼントくれるとは思わなかったから」
るーちゃんはパンケーキ生地をホットプレートに広げながら、つぶやく。
「るしあ、今ロウソクの火見てる……いいよね、こういうの」


 僕は家にたどり着いて、るーちゃんの配信を見ながらTwitterを更新した。するとdragon_from_USDAのツイートを、かなたんがまたRTしていた。
「死霊術師の家にお邪魔した次は、騎士団長の家だぜ!!」
 TLのみんなも、ノエル団長の配信に移動するみたいだ。
「団長、今日はこれくらいにして……1時間ポッキリですのでね」
団長の配信は、ちょうどマリオカート配信が終わり、スパチャ読みが始まる時間だった。
「あっ、みなさん、少々お待ちくださいね~」
サンタ衣装の団長が動きを止め、また5分後、戻ってきた。
「ただいま~!かなたんたちが来てくれたんだけど、声乗せたくないって言ってすぐ帰っちゃった。気にしなくていいのにねえ」
そう言って団長が配信に載せたロウソクには、天使とドラゴン、メイスの絵が置かれていた。
「聖夜のキャンドルサービスだって!あこがれちゃうなあ。団長も、フレアと……」

 dragon_from_USDAのツイートとかなたんのRTは、その後も続いた。
 「宝鐘マリン@ホロライブ3期生
配信の合間に、天音かなたとその連れがクリスマスプレゼントをくれました
キャンドルサービスって言ってました
てぇてぇですね」
絵文字を除くと意外に落ち着いた印象のマリン船長のツイートには、やはり火のついたキャンドルの写真があった。天使とドラゴン、そしてドクロ君の絵が添えられていた。
 「白上フブキ@敗北はイカが?
天使とドラゴンがキャンドルサービスしに来たぞ!
クリスマスだからってノロけやがってえー
尊い!」
写真には、天使とドラゴンとトウモロコシの絵が添えられている。
 TLは、
『テーブルを回ってるんだ!』
『尊い……これが天界か……』
『は?尊すぎ死ぬ』
『かなココは永遠だよな!!!』
と、歓迎のツイートがあふれ、「かなココ結婚」がTwitterトレンド1位になった。


 ひとしきりTLの盛り上がりが終わると、かなたんからのツイート通知が来た。
「みんなただいま!!!
色違い赤ウパー耐久!!!やるぞおおおおおお!!!!!」
作りこまれたサムネイルで、ポケモン耐久枠が建てられていた。
しかし、かなたんのツイートの履歴を見ると、「dragon_from_USDA」のツイートをRTした履歴は一つも残っていなかった。
「dragon_from_USDA」のアカウントに飛んでみても、「このアカウントは存在しません」と表示された。
 誰もが、おとなしくかなたんの配信を待つしかないのか……と思った。
しかし、配信の数分前、かなたんのTwitterからまたもやツイート通知が届いた。
 「天音かなた ホロライブ4期生
今日は色んなホロメンのところにお邪魔して、すみませんでした。
近くに住む友人が、これをホロメン全員分作ってくれました。
クリスマス中に全員に届けることはできないけど、届けられる分だけ、さっきまでに届けました。
メリークリスマス。」
そう言って、今日のツイートが無かった全員分の、膨大なロウソクの写真がアップロードされていた。
ロウソクの上には、天使とドラゴンに加えて各ホロメンのモチーフが添えられている。

 ただし、一番手前のロウソクには、天使とドラゴンしか載っていない。
その代わり、ロウソクの前に、かなたんの天使の輪と、代紋ピンバッヂ、そして一対のペアリングが置いてあった。

 さあ、23時からかなたんの配信だ。
どんなコメントと、スーパーチャットを投げようか。


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pixivに小説を投稿し始めて、他の人が「企画」というイベント合わせのようなものをしているのを初めて知りました。

グルッグズ・マッドヴラドが主催した「ホロSSクリスマス甘ネタテロ」が目に入り、僕ならやはりかなココと思ったので書きました。この時期はかなココはまだ同居もしていましたから、それを踏襲した内容になっています。

この時期以降、グルッグズの企画やホロクリエイター企画に参加していくことになります。