2019年1月26日土曜日

隣課の女子 第十夜~第十一夜

以下は2019.1.15~2019.1.20のpostの転載です。
隣課の女子(26)
第十夜(幕間)

年は替わり1月3日。我が社はこの日までお休み。
待ち合わせのコンビニにやってきた中川を迎えた。
「じゃあこれ、5,500円。ロリコン同人誌も色々買ったから貸してあげる」
「ありがとうございます!」
中川はコミケに参加するつもりだったが体調不良で断念、僕がおつかいとしてアズールレーンの企業ブースでグッズを買ってきたのだった。また、中川はロリコンなので、朝潮本とか霞本とかも貸した。

「時に中川君、クラシック(音楽)って興味ある?」
「あります」
「1月13日に、ニューイヤーコンサートあるんだけど、来る?」
「えっ、チケットあるんですか?」
「2枚取ってある」
「えっ、行きます」
中川はロリコンでバイク好きで、あまりクラシック音楽に接点が見られないから、この言葉は意外であった。
「クラシックだなんて、伊久さん、やけにハイソじゃないですか」
「いや、1,500円のチケットでハイソって言われても.......」
まあ、クラシックにはそういうイメージあるよね。もっと気軽に聞きに行けば良いのに。

「あっ、そうだ」
僕は思い出したように切り出す。
「中川君誘ってもしょうがないんだった。”好き好き大好き”瑞穂さん誘わないと」
「そうですよ!僕なんかより瑞穂さん誘ってくださいよ」
正直、前段は話しの枕であって、僕の退路を自ら断つための言い回しである。中川はダシだ。
「瑞穂さんを誘うなら、僕の分のチケットは要らないですよ。瑞穂さんに振られたら僕に言ってください」
「明日は仕事始めの日だし、明日誘うわ」
「がんばってください!」
我ながら白々しいが、そういうことで瑞穂さんをコンサートに誘うことが決まった。

なお、瑞穂さんは1月4日はお休みだったので、実際に誘うのは翌週となる。


隣課の女子(27)
第十一夜(アタック編)

翌週、1月9日。瑞穂さんをコンサートに誘う日がやってきた。
瑞穂さんは珍しく、周囲にお土産を配っている。
「どこか、行ってきたの?」
「はい、大阪に。伊久さんもどうぞ」
お土産はラング・ド・シャ。僕も横浜で買ったことがあるパッケージだった。
「これ、おいしいやつじゃん」
「おいしいやつなんですか!ではもうひとつどうぞ」
「ありがとうございま~す」
2個もらった。

瑞穂さんが席に戻ったので、所定の位置へ。なお、中村さんは早めに帰ったようで、近くにはいなかった。
「伊久さん、これありがとうございました」
「ああ、『未来』」
「読ませてもらいました。面白かったです」
機関誌「未来」の発行は年末。僕の原稿も四本掲載されている。無論、瑞穂さんの名義を借りた分も載っている。
「それはよかった」
「これ、もらったクオカードです」
瑞穂さんはクオカードの封筒をそのまま差し出してきた。
「いやいや、僕は1,000円でいいから、残りは瑞穂さん受け取って。瑞穂さんの名前で投稿したんだから」
瑞穂さんは幾度かクオカードを全部僕に渡そうとしたが、僕は「全部もらったら申し訳ないから」と固辞した。


隣課の女子(28)

「ところで、今日はナンパに来ました」
「ナンパですか」
「ナンパです」
僕は面倒なのが苦手だ。わかりづらいのも嫌い。ということで、できるだけわかりやすい単語を使う。
「13日にクラシックのコンサートに行くんだけど、瑞穂さんは行くかなと思って誘いに来ました」
「えっ、そんなもったいない、他の人を誘った方が……」
「瑞穂さんを誘いに来たんです」
誰かを誘おうと言うんじゃない。お前を誘ってるんだ。

なお、このタイミングで誘ったのにも色々理由がある。「未来」のクオカードが収入として入ったので、「返報性の原理」を狙っている。

「チケットも既に取ってあるんですけどね、一人で聞きに行ってもアレだし」
「どんな曲をやるんですか?」
「賭けても良いくらい、聞いたことある曲。『威風堂々』とか『天国と地獄』とか」
「『天国と地獄』は名前を聞いたことあります」
「絶対、聞けばわかる」

このへんの記述、フェークの入れ方が難しい。


隣課の女子(29)

伝えるべきことは伝えた。祈るような気持ちで返事を待った。しかし、
「その日、ちょうど予定入ってて......」
瑞穂さんの返事はつれないものだった。
「そうか、残念」
「なので別な人を誘ってください」
「そうするよ」
「またお話聞かせてくださいね」

誘ってみて振られるというのは、その気があってもなくてもさみしいものだ。実際に予定が入っていたかもしれないが、「脈無し」ということであろう。
僕は振られた結果を中川に伝え、男2名でクラシックコンサートに行った。
「伊久さん、伊久さんにとって、瑞穂さんは『アリ』なんですか?」
「僕は女性を『アリ』『ナシ』って言える身分じゃないけど、もちろん『アリ』だよ」
顔面偏差値にはこだわらない主義なんだ。
中川君はクラシック音楽というものをほとんど知らなかったので、「ニューイヤコンサートで、題目には載ってないけど確実に『ラデツキー行進曲』が演奏されるだろう」ということを言い当てただけで僕はすごい人扱いされた。

第十一夜(アタック編) 終



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