以下は2018.10.19~2018.11.28のpostの転載です。
隣課の女子(19)
第七夜(幕間)
「新之助、年明けのクラシックコンサート行く?」
母が尋ねる。
僕は時々、クラシックを聞くので、地域でコンサートをよく開催するハコの「クラシック音楽の会」なる団体の会員になっている。母も会員。
「私は用事あるから行けないけど」
「何演奏されるの?」
僕はそれほどクラシックに詳しいわけではないので、指揮者や演奏者はよく知らない。
「チャイコフスキーと、ホルストと……」
「僕の好きな作曲家ばっかじゃん。行くから、チケット取っておいて」
チケットは翌朝、10時発売だ。僕は仕事をしている時間だから、チケットの確保は母に任せるしかない。
「1枚でいいね?」
「うん、よろしく」
1枚で……うーん、毎度一人で行くのもなあ。
「……いや、2枚取っておいて」
無駄になっても、たかが数千円。手数は用意しておいて損はない。
何もかも、「興味ない」と排除するのもつまらない。経験は多様なほど、人間を成長させる。
少し、瑞穂さんのことを、意識してみようかな。
隣課の女子(20)
第八夜(動画配信サイト編)
Google+の閉鎖が予告された数日後。僕はまた瑞穂さんの席に来た。
「瑞穂さん、今度は送れたね」
「はい」
第六夜で説明したとおり、「未来」の原稿をやりとりした。
「中身読んだ?」
「いえ、全部は......」
「まあ、また校正がメールで行われるから、そのとき読んでよ。誤字脱字がないか、とか」
僕は基本的に、作品に自信を持っているから、是非読んでほしい。まあ、内容が瑞穂さん好みかどうかはわからないけど。
「東先輩は16本書いてるらしいよ」
「16本!?」
「僕は4本。本当はもっと書きたいんだけど、各ジャンルに深すぎて、別名義でばらけさせるのに無理があるんだよね」
名義を貸してもらって組合に提出するとしても、ミリシタのことばっかり書いて『絶対こいつら同一人物だろ』と思われてにらまれるとやりづらい。クオカードを、同一人が数人分ガメていることが広まると、余り良くない気がする。
「でも、4本でもすごいですよ」
瑞穂さんが言う。
「自分も、短大で論文書いても、先生に『何かいてあるのかわからない』って言われちゃって」
「ああ、あるある。思いつくままに書いちゃうよね」
「そうなんですよ」
もの書き初心者あるある。
「まあ、今は全然それでいいと思うけど、部署が変わると、ウチの会社、結構会話記録とか取る部署もあるからね」
渉外とかね。瑞穂さんはまだ、新入社員の扱いだから、経理補佐みたいな部署にいて、ミスっても社外に迷惑をかける状態にない。
隣課の女子(21)
「長い文章書くのが苦にならない人と、全然無理な人とがいると思う」
「ああ、私絶対書けない人の方です」
「わかると思うけど、僕は書ける人なのよ。むしろ、書かないとウズウズしちゃって。高校生の頃は『GTO』の二次創作小説とか書いてた」
「小説!」
ネットのサイトにアップロードしたりしてました。
「だけど、大学に入ったりして、仲間内の交流が多くなると、ブログやmixiに行っちゃって。で、書きたい欲が満足できちゃうでしょ。だから二次創作小説書かなくなっちゃった」
これはまったく本当だし、実感していること。
「twitterもやってて、一時期ははまってたんだけど、やりすぎて大学留年してた。でも、『未来』原稿Word文書で5ページ書いたように、僕は長文の人だから、twitterがどうも合わないわけよ」
「そうでしょうね」
「それで、 Google+ っていうSNSに出逢って、7年そこに棲んでたわけ」
「ニュースで見ました、無くなるって」
AKBやCanCamのときは一顧だにしなかったのに、無くなるときだけニュースになるんだもんなあ。
「そうなんだよ!僕の書きたい欲がなみなみと注ぎ込まれたG+が、存在ごとなくなっちゃうんだよ」
「それは悲しい」
わかってくれるか、瑞穂さん。それだけでも僕は嬉しい。
なお、瑞穂さんにこの話をする前に、守山にも「G+が無くなるので俺はへこんでいるんだ」という話はしていた。
しかし、守山は「ネットの友達とか、ウワベだけの付き合いでしょ?」とか、「その友達と、移住先検討してるんなら、その後も連絡取れるわけでしょ?ならいーじゃん!」とか言って、寄り添ってくれる姿勢を一切見せなかった。
あんまりなので、それ以降守山とは一言も口をきいていない。
隣課の女子(22)
「僕はね、やっぱ歌が好きなんだよ」
国歌とかな。
「どんな歌が好きなんですか?」
「唱歌とかアニソン。歌いたいからカラオケに行くんだけど、一緒に行く人はいなくて一人カラオケだよ」
「私もたまに行きますね、一人カラオケ」
ほんとか。
「学生時代は、カラオケボックスが近くにあったので......」
「今は、それほどカラオケには行ってないんだ」
「そうですね、趣味といっても映画くらいですね。誰が主演で出てるとか聞いて」
映画、瑞穂さんは、特撮見るって言ってた気がする。
「僕は映画はあんまり見ないなあ、見ても、シナリオが面白そうなのを見に行く感じ」
「そうなんですか」
「以前、女の子と映画見に行ったんだけどね、終わった後、その女の子は、主演.....助演かな、俳優の話してたんだけど、僕が内容の話をしたんだよ。そしたら翌日からラインブロックされた」
「それは........即断即決ですね」
「そうなんだよ、何が起こったのかわからなかった」
話が合わないな、と思われたんだろうが、一言二言あっても良いと思うんだよね。即ブロって何だよ。ネットかよ。と思うよね。
隣課の女子(23)
こんな続くと思ってなかったなあ
「一般化するつもりは無いけど、そうすると、女子は映画を俳優で見るかどうか決めること多いの?」
「そうですね、誰が出てるかで見ることはあります」
やはりそこだったか……
「変なシナリオだったとしても?」
「うーん、残念な感じだったとしても、それはそれで、可愛いかなって」
俳優が可愛いかどうかなんて気にしたことなかった。(男女問わず)
「それと、監督ですかね」
「監督」
「洋画で、ラブコメを見るんですけど、ウッディ・アレン監督が好きで」
わかってたけど、わかんねえ。
「どんな映画を撮るの?」
「わかりやすいラブコメで、変な展開にはならなくて安心して見られる映画です。最初から、『こうなるだろうな』って展開が予想できて、その通りになるんですけど、」
「面白いんだ」
「面白いんですよ~」
面白いのか。
隣課の女子(24)
「伊久さんってアマプラとかやってますか?」
アマプラ……アマゾンプライムか。
「全然……。アニメもニコニコで見てる」
「アニメも配信されてますし、ドラマとか映画とかもありますよ」
でしょうね。
「なので、ぜひ見てください!」
はい。(見るとは言っていない)
他の動画配信サービスを、いくつか紹介された。
「じゃあ、ちょっと調べてみるか……。うーん、クレジットカード苦手なんだよねえ」
「わからなくはないです」
第八夜(動画サイト編)終
隣課の女子(25)
第九夜(偶然編)(夜ではない)
ある日、僕は有給休暇を取った。
とはいえ、いつもはお仕事をしている平日の昼間なので、正直言って何をするか思い付かない。その日には、クロスワードパズルを解くことにした。
「未来」を編集しているのは労組だが、ここは月1の労働新聞も発行している。労組の活動内容の他、俳句やクロスワードパズルが載り、パズルの正解者にはギフト券が抽籤で当たる。僕はパズルも好きだしギフト券も好きなので、毎月応募していた。
パズルを解いたら、編集部に送ればいいのだが、たまたまその日は締め切りの日。社内文書箱では間に合わないので、直接編集部に行くことにした。編集部が入っている建物は、前に使っていた社屋で、車で30分ほど。
そんなこんなで10時半ごろに社屋を出ようとすると、なぜか瑞穂さんとバッタリ出会った。
「こんにちは」
挨拶は大事。
「こんにちは……えっ?伊久さん、今日は休みでは?」
インジケータは誰でも見られる位置にあるのでわかる。
「パズル提出してきたんだよ。それより、瑞穂さんは?」
僕の課は、まあまあ出張の多いところだが、瑞穂さんの課は年に数回しか出かける用事はないでしょ。
「年次ポスターを編集部に取りに来たんです」
お互いに、珍しい機会なのに、偶然が重なって、思いもよらない場所で会って、面白いね、と言って別れた。
隣課の女子 第零夜~第一夜
隣課の女子 第二夜~第三夜
隣課の女子 第四夜
隣課の女子 第五夜~第六夜
隣課の女子 第七夜~第九夜
隣課の女子 第十夜~第十一夜
隣課の女子 第十二夜
隣課の女子 第十三夜~最終夜
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